愛尼人はなぜ白豚を食べないか
愛尼人は白豚を食べない、むしろ白豚を大切にする。それにはこんな伝説がある。
昔、山紫水明な格朗和山に二十戸ほどの愛尼人の集落があった。その集落に明春阿媽という貧乏な一人暮らしの女がいた。明春阿媽は毎日、日の出から日の入りまで働いたが、たいそう貧乏であった。それでも物乞いとか、こそこそと徳に欠けることはしなかった。
さて、この集落に阿三という漢人が妻子とともに移り住んで来て酒屋を始めた。ある日、阿三は集落に誰のものか分からない白豚がいるのを見つけた。この豚は太っていて体は軟らかく、真っ白であった。阿三はこの白豚を追って、自分の豚小屋へ入れておいたが、数日たっても誰も来ないし、誰かが豚を逃がしたという話も聞かない、阿三は豚の持ち主がいないことを確かめ、集落の長老たちと相談して、この白豚を殺し、肉と骨を集落の人々に平等に分けた、だが明春阿媽はいわれのない肉は受け取れないと阿三が持って来た肉を受け取らなかった。
しばらくして明春阿媽はウグランへ草刈りに行くと、人に変身した龍のベンランに出遇った、ベンランは少し前にいなくなった白豚を捜しに来たのだ。明春阿媽はベンランに白豚のことを聞き、この間、集落であったことを話した。ベンランはそれを聞くと明春阿媽の家へ案内して貰い、客となって休み、帰る時に金や銀のほかに籠一杯の粗い糠をくれ、この糠を家の周りと道に撒くように言って帰った。
明春阿媽はベンランの言うことがよく分からなかったが、言われた通り自分が歩く道筋に糠を撒き、集落の中の自分の家の周りには、なおいっそう厚く糠を撒いた。その晩、集落の中に耳をつんざくような音が響き、明春阿媽が起きてみると集落はすっかり深いよどみの中に沈み、自分の茅葺きの家と道だけが残っていた。
それから愛尼人は白豚は龍が飼っているのだと知り、誰も白豚を食べなくなった。今でも愛尼人は誰も白豚を殺して食べることはしない、白豚を食べて龍の罰を受けることを恐れるからである。
付記 愛尼人は白色の家畜を忌み嫌う、白い豚、白い犬、白い鶏は不吉だと、苛めたり食べたりしない。だから一般に村では白い牛、白い豚は飼わない。白い犬と白い鶏は飼うことがあっても、年越し、祖先の祭り、子供の誕生の時の客の接待のために殺したりはしない、そうしないと災難に遭ったり、礼儀知らずだと言われると思っている。ただ祈祷師が病気を治すために鬼神を祭る“祥命甲”の儀式を挙げる時、山や土地の鬼神を祭る時はどちらも白い鶏を供える。愛尼人は鬼神に白い鶏の肉を食べさせると、人に幸せをもたらすと思っているからである。
西双版納哈尼族民間故事集成 1996・5・27