男身女魂

 昔、この王家鎮に幽霊が出た。そこで王家鎮の県知事であった王文庫は廟を建て霊魂を鎮めようとした。廟ができると王家鎮の名士たちは芝居の一座に祝いの芝居を打たせ、歌を歌わせて王文庫の御機嫌をとった。

 この芝居の一座の中に李大胆という武者役の役者がいた。武芸に勝れ天地を恐れず、弱者の難儀を見過ごすことのできぬ性格であった。
 ある日、芝居がはねて一座の者がお喋りをして「李大胆、あの廟の周りに夜な夜な幽霊が出るというが、お前、真夜中に廟にある香炉を持って来られるか、持って来られれば俺たちがみんなでお前におごる、持って来られないでお前が負ければ、お前、みんなにおごれ」と賭をした。李はなんだそんなことかと笑い「お前たちが負けるに決まっている」と答えた。
 夜、人が寝静まると李大胆は短い服をつけ、護身用の九節鞭を腰に差し、急ぎ足で廟へ行った。廟の門を入ると足に霊界の風を感じ、ぞくっとした。だが大胆は邪を制する俺が、幽霊を恐れてはこの髭がすたると、すぐ神殿の前の香炉を持って廟を出ようとしたが、霊界の風が大胆を囲み、廟の門から出られない。李大胆は急いで九節鞭を抜き霊界の風を打ち、身をかわした。

 すると近くで悲しみに満ちた女の泣き声がする、大胆は泣き声のする方へ走り寄ると、一人の女がうずくまっている、大胆は勇を鼓して「お前は人か幽霊か」と問うと、女は叩頭の礼をすると「李大兄、わたしは恨みを果たせず幽霊になりました、あなた様は勇気のある正義のお人とお聞きしました、どうかわたしども父子に代って仇を討って下さい」と言った。そして女は泣く泣く大胆にその身の上を話した。

 女の姓は張、名は水仙、祖先は宮廷に仕え大官であったがその後は零落し、女は老父の張と二人でそっと暮らしていた。張家には先祖伝来の二つの宝があった。一つは古い海龍図、もう一つは避水珠であった。これをどうして王家鎮の知事王文庫が知ったかは分からないが、王文庫はこの宝を手に入れ皇帝に献上して升官し財を得ようとしていた。
 王文庫は何度も大金でこの宝を売れと迫ったが張老人はどうしても売らなかった。王文庫は遂に、その宝は盗んだものだろうと責めて捕らえ、重い刑に処し拷問したが、張老人は頑として聞かなかった。王文庫は万策つき、この強硬な張老人を放免して家へ帰すしかなかった。

 しかし、張老人は自らの死を悟り、密かに水仙に二つの宝を自分の遺体と共に墓に埋め、水仙が嫁ぐ時に掘り出して持って行くように告げて死んだ。水仙は父の遺言通りに宝を墓に隠した。だがそれでも水仙は王文庫の悪企みから逃れることはできなかった。
 王知事は更に巧妙な手口を使ってきたのである。まず自分の手下の家僕に王家鎮の一角に土地を買わせ、ほかの土地からこの地に来たと嘘をつき、媒婆(meipo 縁談仲介業の女)に金をやって水仙とこの家僕との結婚を仲立ちさせた。
 この家僕は善人のように見せかけ、二三年、真面目に畑仕事をし家も建て隣近所に、いい若者だと思い込ませた。張家の親戚の長老も、こういうことを見聞きしていて、水仙に年がくれば、誰も男は娶り、女は嫁ぐものだ、この若者はほかの土地から来たと言うが、暮らしも悪くないし真面目だから苦労もないだろうと結婚を勧めた。こうして水仙は騙されてこの家僕と結婚した。

 だが結婚すると王知事はすぐ借金を返せと言ってきた。水仙はこれは変だと思い、夫になったこの家僕を問いただした。するとこの家僕は王文庫の遠縁で、父母を亡くし王知事を頼って金を借り、ここに土地を買ったのだと嘘をついた。水仙はすぐ金を返して王知事とは縁を切ってくれと言った、この家僕の夫は水仙の言うことを聞いたふりをして土地を売り、王知事に金を返した。だが暮らしはどんどん悪くなるばかり、夫はどうしようもないと騙し、水仙に二つの宝のことを聞いた。水仙は何故、夫が張家の宝のことを知っているのかと驚き怪しみ、どうしてそれを知ったのかと繰返し聞いた、夫は人が言っているのを聞いたのだとごまかした。それから水仙は何時も夫を用心するようになった。

 ある日、王知事がまた人を寄越してきたので、家僕の夫に何を話すのかと聞いていると、三年もたってまだ宝を手に入れられないのかなどと家僕の夫を怒鳴っているのが聞こえた。水仙はすべてが分かり悪人どもに計られていたと知り、恨みを残し首を吊って死んだ。それで水仙の霊魂は王家鎮に止どまり、幽霊になったのであった。

 李大胆は水仙の話を聞き終わると、どうすれば仇を討てるかと水仙に聞いた。すると水仙は「わたしの霊魂は廟に閉じ込められて出られません、でも廟の四方の柱の土台の石をはずせば、わたしの霊魂は出られます、そうしたらわたしが教えますから、わたしに代わって仇を討って下さい」と答えた。
 李大胆は廟の四方の柱の土台石をはずして水仙を解き放すと自分は病気になったふりをした。

 一座の者は夜が明けて、鶏が鳴いても李大胆が帰って来ない、何かあったのではないかと心配してみんなで廟へ行ってみると、大胆は廟の中で倒れ、何かぶつぶつ言っている、みんな大変なことになったと手とり足とり大胆を担いで帰った。
 夜になって水仙は鉄の鍬を持って一緒に来てくれと言ってきた。大胆は起き上がると便所へ行くふりをして水仙について行った。水仙は李大胆を張老人の墓の前に連れて行くとまず墓を掘ってくれ、わたしは霊界にいる父に会いに行くからと言った。李大胆は墓に礼を捧げてから墓を掘った、張老人の遺体は少しも腐らず、軟らかい花びらのようで静かに眠っているようだった。大胆は二つの宝物を取り出すとまた張老人の遺体を埋めた。

 そこへ一座の者が大胆を捜しに来て、大胆が墓を掘っているのを見ると、霊魂に驚き気が狂ったのだと思った。しかもこの時、水仙の夫だった王知事の家僕が夜陰に乗じて女と密通しての帰りにここを通り、李大胆が一巻の絵の軸を手にしたのを見て、あれだと気づきそれを奪おうとした、すると一陣の霊界の風が吹き、巻き物と宝珠は消えた。
 大胆は水仙が持って行ったのだと安心した。だが王知事の家僕の夫は承知しない。李大胆は墓を掘り返したと王知事に訴えた。王知事は李大胆を死罪と決め死刑囚の牢に閉じ込めた。

 ある晩、水仙は二つの宝物を持って死刑囚の牢に来て李大胆に「李大兄、心配しないで、わたしはあなたを助けに来ました、宝の絵と宝珠をあなたに渡しますから、明日王知事に宝の絵を渡して下さい、宝珠は渡さずに持っていて下さい、宝の絵を王知事が部屋の壁に掛けたら、あなたは王文庫の家の周りを回り、それから避水の珠を持って宝の絵を取りに行くのです、そうすれば仇は討てます」と言って水仙は消えた。

 翌日、大胆は獄卒に引かれ王知事の前に出ると海龍図を王知事に差し出した、王知事は喜んですぐ絵を受け取った。李大胆はすかさず「知事さま、宝珠はこの家の外に隠してあります。もしわたしの死罪を免ずるなら、すぐ持って来て献上します」と言った、王文庫は嬉しくなって「お前のどんな罪も許す、すぐ宝珠をわしに献上しろ」と言った。
 大胆が出たあと知事は絵を見ようと召使に海龍図の軸を掛けさせた、上の方から龍の頭が見えると龍は頭を動かした、王知事は思わず手を打って喜んだ、龍の尾が出て尾を振ると知事は足を踏んで喜んだ。海龍図が全部ひろげられると、龍は絵の中の海を駆け巡り、次第に大きくなり海水を飲み込むと、部屋の中に吐き出した、たちまち知事の屋敷は海水に巻き込まれてしまった、それは李大胆が避水珠を持って知事の屋敷を一周したので、屋敷の周りは土手で囲まれ、その囲み中へ猛烈に海水が流れ込んだのだ、二時間もしないうちに王知事の屋敷の六つの門と悪者どもは一人残らず水の底に沈んだ。
 李大胆は水仙に言われた通り、避水珠を身につけて海龍図を取りに屋敷に入ると水が開き、一本の道ができた。屋敷の中の建物に入ると水はすぐ龍に吸い込まれ、李大胆は海龍図を巻いて逃げ、一座へ帰ると何事もなかったように芝居を続けた。

 数日たったある日、水仙がまた訪ねて来て「またわたしに災難がきました、李大兄、わたしを助けて下さい、水淹王は王文庫に罪の償いをさせましたが、わたしは仇を討つために天界の秘密を漏らしたと、霊界へ帰れず天界で罰せられます。明日ちょうど午の刻に天界の雷公がわたしを捕らえに来て、宝物も持って行きますが、わたしの霊魂はあなたの体の中へ入れば助かります、午の刻を過ぎればもう大丈夫です」と言った。大胆は「よし最後まで助けてやる、俺はどうなっても後悔はしない」と答えた。

 翌日の昼、果たして盆をひっくり返したような大雨が降り、雷が轟き、李大胆の体を取り巻き、大胆は気絶した。すると突然、狂風が大胆の衣裳を切り裂き、海龍図と避水珠を持ち去った。午の刻を過ぎると大胆はゆっくり目をあけた。
 だが、この時から李大胆の立ち振舞いは女のようになり声もなまめかしくなった、一座ではちょうど女形が欠けていたので、大胆は武者役から女形の役者となり、やがて名女形になった。後には蓄えもでき妻を娶り子が生まれ、子や孫は政府の高官となった。

 人々はみんなこれは水仙の霊魂が李大胆にとりつき恩を返したのだと言った。  

            薛天智故事選                                     1996・5・8                              

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