閻魔大王を恐れる

 昔、石仏寺の麓に李という人が住んでいた。ある年の夏、李さんは照りつける陽射しの下で息子たちと麦打ちをしていた。
 すると南の方から頭に大汗をかいた一人の風水の占い師がやって来て、李さんに「旦那、私は旅の者ですが喉がカラカラです、どうか、水を恵んで下さい」と言った.
 李さんは風水先生を上から下まで見ると「いいですよ、ちょっと座って待ってて下さい、今、持って来て上げます」と言い水汲み桶をさげ井戸の冷たい水を汲み上げると、そのまま出さず、積み上げた麦から麦殻をひとつまみとって、桶の水に浮かせ、それから風水先生に桶と瓢箪の柄杓を差し出した。

 占い師はこのやり方をみて口には出さなかったが“この男、何のつもりだ、人に飲ませる水に麦殻なぞ入れやがって、水を飲んだら、どうするか見てろ”と心の中で罵倒した。でも占い師は喉が焼けつくくらい乾いていたので、浮いた麦殻を口で吹き吹き水を飲んだ。そして冷たい水が体にしみ、とても爽やかな気分になった。

 飲みおわった占い師は目をぐるりと回し、李さんに「御馳走さまでした、ところで旦那、私は南から来た風水の占い師で、今日はここを通りかかったわけですが、はっきり言わして貰えば、お宅の裏のお墓はよくない、家を断絶したくなければ考え直したほうがいい」と言った。李さんは驚き「先生それなら面倒でもわたしの家の風水を占って墓地を選んで下さい、お礼は十分します」と頼むと、風水の占い師はきっぱりと「よろしい、あなたはなかなか物わかりがいい、力をかして上げましょう、待ってて下さい、占って来ますから」と言うと出て行って石仏寺のある山へ登った。
 山の上であちこち眺めると、山は青く水は澄んで日当たりもよく、いい所ばかりである。“これじゃあ駄目だ、わしはあの男に子孫の絶える墓地を占ってやるのだから”と、なおも探すと山の途中にじめじめした洞穴を見つけた。占い師はこれだと意地悪そうに陰気くさい洞穴の辺りを調べてみた、どうやら中に五匹の鬼がいるようだ、占い師は嬉しくなって、心の中で“ここはいい、ここにあいつの祖先の墓を移させ、五匹の鬼に守もらせれば、あの男の家はよくなりっこない、そしてあいつの家は滅びてしまう”とほくそ笑んだ。

 占い師は李さんの家へ戻り、出鱈目な話を作り「李さん、石仏寺の山腹に風水のいい所がありました、陰陽、隔たり、地勢も悪くない。あそこを祖先の墓にすれば、後日きっと家は栄えます」と言った。李さんは喜び、すぐ風水先生に多めの銀貨を差し出した。占い師は銀貨を受け取ると、いとまを告げながら腹の中で笑い、“見ていろ、後でこいつの家は酷い目に遭うぞ、五匹の鬼で家は滅び、子孫は断絶だ”と呟いた。

 風水先生が去った翌日、李さんは息子たちを連れ、風水先生が占ってくれた洞穴へ行って、土を崩しそこに祖先の墓を移した。ところが不思議なことに李さん一家がここをお墓にしてから、李さんの家は日増しによくなって来た。そればかりか家族もよくなり、五人の息子たちは前後して妻を娶り子供が生まれ、李さんの家は日に日に栄え、孫は増えるし、心はまるで甘い蜜を嘗めるようだった。
 李さんは心の中でわしの家がこんなに栄えたのはあの風水先生が教えてくれたお陰だ、何時かあの風水先生に会ったらよくよく礼をしなければならないと思っていた。

 さて、あの風水先生は南に北へと回っていたが、ある年の夏、また石仏寺のこの地方へやって来た。先生はいかにも感慨深そうに昔のことを思い出すと、あの辺りを歩いてみようと考えた、“あの家はもはや落魄れて、あの男も死んでしまったろう、ざまあみろ、俺をからかいやがった罰だ”と自分の占いの霊験を確信して李さんの家へ行ってみた。
 ところが、李さんの家の庭を見てびっくり、庭にはロバが何頭もいるし、鳥小屋は鶏やアヒルで一杯、穀物は山のように積み上げてあり、四五人の子供たちが遊んでいる。風水先生、目がおかしくなったのかと、目をこすってみてしばらくぼんやりしていると、老いた李さんが絹の服を着て笑いながら出て来ると、風水先生が来たと大喜びで、「ヤア−先生、待っていました、わしの家が今日こうして栄えたのは先生のお陰です、本当に有難うございました。どうぞお入り下さい、まず一献差し上げます」と言った。

 風水先生、何が何だか分からず、李老人について家に入ると、部屋は広く日常品、置物など何もかも揃っている。李老人はそばの五人の息子に「お前たちの子供をみんな連れておいで、先生にお目にかけよう」と言った。やがて召使が五人の利口そうな元気な子を連れて来た。
 李老人はこの孫たちを指しながら風水先生に「この孫たちの名前は長男の子が『大閻魔』次男の子が『二閻魔』後ろの三男の子が『三閻魔』四男に手を引かれている子が『四閻魔』一番後ろのが末っ子の子で『五閻魔』といいます」と言った。
 風水先生、この名前を聞いてびっくり仰天、胸のうちで“ハハア、道理で五匹の鬼があの墓地に住めない筈だ、これは李家に五人の生きた閻魔大王がいたからだ、きっと五匹の鬼は五人の閻魔大王の名前に驚いて逃げ出し、それでこの家が栄える風水ができあがったのだ、全くいい名を選んだものだ、してやられたわい”と思い、つい「この子たちの名は誰が付けたのですか」と尋ねてしまった。
 李老人は「わしです、この孫たちが大きくなっても、強い閻魔の名を付ければ誰にも苛められないと思って付けたのです」と答えた。

 風水先生は「ア−」と溜め息をつき「李さん、もう嘘はつけません、本当の事を言います、実はあなたの家で水を貰った時、あなたがわたしに麦殻を撒いた桶の水を出したので癪にさわり、あなたを懲らしめてやれと五匹の鬼のいる所を墓に選び、あなたの家が落魄れるようにしたのです、ところがあなたが孫たちに閻魔大王の名を付けたので五匹の鬼は逆に驚いて逃げ出し、それであなたに吉の運が回ったのです」と言った。
 李老人はそれを聞くと「ハハハ」と笑い「イヤ−あれはわしが先生を心配したからです、あの時、先生は喉を酷く乾かせ、全身に汗を流していました、わしはすぐにも先生に冷たい水を上げようと思っていました。しかし、あの熱い日に大汗をかいたまま急に冷たい水を飲めば、肺が破裂して悪くすれば死んでしまうと考えたのです、そこで水に麦の殻をひとつまみ入れれば、先生は麦殻を吹いたり、水を飲んだりするから、急にお腹に冷たい水が入らないと考えたのです、先生はわしを誤解したのです」と言った。

 風水先生は話を聞き終わり、やっと自分が誤解していたことに気がつき、顔を赤い布のように赤くして李老人に向かい丁寧に頭を下げ「李さん、わたしが悪かった、悪かった」と謝った。   

            譚振山故事選                                     1996・5・6 

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