占いの術  

 ある老先生、道端に机を置き椅子に座り、口の中で「山の絵は高い山が難しく、木の絵は梢が難しい、子供の泣きっ面は描けるが、美人の笑顔は難しい」などとブツブツ言いながら紙の上に絵を描いている。

 そこへ一人の男が通りがかり、老先生のブツブツを聞いていたが「先生、何でも描けるのかね」と聞いた。すると老先生、顔も上げず「空を飛ぶもの、地を駆けるもの、水に泳ぐもの、草に跳ねるもの、チイチイ囀るもの、ワ−ワ−ブ叫ぶもの……すべて十六様に飛ぶ鳥、七十二様に走る獣」と答えた。男が「先生、大きなことを言うねえ」と応じると、老先生「客人、わしは嘘は言わん。“大”の字から雁の絵、“小”の字から燕の絵、“人”の字から橋の絵、“十”の字から若い娘の絵が描けるのが自慢だ」と言った。

 それを聞いた男は笑い「先生、話がだんだん怪しくなってきたな、つまりあんたは絵を描いて売る絵描きなんだろう」とひやかすと、「客人、それは違う、絵描きは門構えの家で書斎には八人掛けの大きな机にゆったりとした椅子を備え、机の上に筆墨紙硯と何色かの絵の具を並べ、山水、人、花を描く、これが絵を売る絵描きだ」と老先生。

 「じゃあ、あんたは薬売りかい」と男がからかうと、老先生は頭を振って「わしは薬売りでもない、もし薬売りなら、薬、小刀、針、瓶、碗、缶、粉、卵……などがあってそれでやっと薬売りだ」ときり返した、「絵描きじゃない、薬売りでもない、それならあんたはいったい何なんだい」

 「客人、実はわしは運勢と人相をみる占い師だ」 「へ−、老先生、あんたは占い師か、それなら俺の運勢をみてくれ、俺は何をして生きていけばいいか、何を食べ、何を飲み、どんな糞をして、どんな小便をするか」 「客人、わしは人の貧、富、貴、賤、夭折、寿命、失敗、成功は占うが、食べる飲む糞小便寝るは占わない」 「じゃあ、俺の貧、富、貴、賤を占ってくれ」 「卦を立てる前に、金を出してくれ」 「先生、あんたなかなか用心深いね、先に金をとるとは、だが先に金をとって、占いがはずれたらどうしてくれる」 「占いが違えば、金はいらない」 男は腰帯の中から金を出し、老先生に渡し「先生、俺は家を出て仕事をしたいが、仕事を探せるかどうか占ってくれ」と言った。

 老先生は頭をさげ、しばらく指を曲げたり手を揉んだりしてから「客人、あんたは今、水の中の龍、風の中の虎、運の動く時だ、ただ仕事を探す前にもとの仕事を何日かしたほうがいい。どんなことがあっても、一番だいじなことは龍の頭をひき、その角を掴むことだ、あっちの山、こっちの山が高いと思い、その山へ行って爪先立ちしないことだ」 「先生、俺はもとの所にはもう一日だっていたくねえんだ」 「客人、それはいけない諺に“満ち足りて楽しみ、堪え忍びて自ら安ず”とある、一つの仕事をして、その仕事を愛し、一筋にその仕事を深める、深めずして手を放してはいけない」
 それを聞くと男は目を丸くして怒り、老先生の顔を指さし「馬鹿野郎、俺は十年牢屋にいて、今日やっと出られたんだ、お前は俺に一生監獄にいろとでも言うのか」と怒鳴った。

 するとこの老先生、怒りも慌てもせず、平然として「お客人、三百六十さまざまな仕事にはそれぞれに第一人者がいるもんだ、あんたは監獄にいていろいろな囚人の心を見てきている、それで人を教えれば効果は抜群、いろんな囚人を早く悔い改めさせ、新しい出発をさせることができる。あんたはそれで天下で最も素晴らしい人物になれるではないか」と言った。
 男は老先生の言葉をここまで聞くと、腹の虫の怒りが消え、心から感心して「老先生、俺は本当にあんたの巧みな弁舌に驚いた、あんたの言うことは広く世間に通じる確かな道理だ。これから俺はあんたの言う通りにしょう」と言って、また腰帯の中から金を出し老先生の机の上に置いて、嬉しそうに去った。  

           宋宗科故事集                                     1996・3・25                             

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