馬鹿息子の人真似

 昔、馬鹿な息子がいた、この息子には小さい時から母親の決めた許嫁がいた。だが、後になって、この許嫁の父親がこの息子は頭が悪いと知り、娘を嫁がせる気がなくなっていた。息子の母親はこのままでは結婚できないと思い、息子に「お金をやるから勉強して、許嫁の実家へ行っておいで」と言った。

 息子はお金を母親から貰うと早速、出かけることにした。息子はしばらく行くと二人の木樵りが木を切っていて、その一人が「この木を切ったら、隠れる場所がない」と言っているので「あなた、今、何と言いました?」と聞くと、木樵りは「通りがかりのお前さんが、関係もないわしらに何か用かね」と言った。
 「今の言葉を教えてくれれば銀二両あげます」 木樵りはお金を貰うと「この木を切ったら、隠れる場所がない」と息子に教えた。

 息子はそれを覚えて行くと、牛飼いが雄牛と雌牛を追って来た。
 雄牛が気を起こし雌牛の上に乗ろうとすると、牛飼いは「雌牛が雄牛を担いだ、尻を叩いてけしかけよう」と呟いた。
 息子は慌てて牛飼いの前へ行き「もしもし、今、あなた、何と言いました?」 「お前、聞いてどうするのだ」 「教えてくれれば、銀二両あげますが」 牛飼いはそれを教えて金を貰った。

 息子は二つの言葉を覚えてまた行くと、夏の時節であちこちに後足が赤いイナゴが飛んでいる、畑を耕していた百姓がそれを見てイナゴに「赤足イナゴ何処へ行く、飛んで飛んで誰の嫁になる」と呼びかけた。
 息子はまた慌てて百姓に「もしもし、今、あなた何と言いました?」 「わしは“赤足イナゴ何処へ行く、飛んで飛んで誰の嫁になる”と言ったんだ」と言うと、息子は「あなたの言葉は素晴らしい、銀二両あげます」と言ってそれも覚えた。
 やがて息子は一本橋のかかった川に来た。そこにいた人が「二本橋は渡れるが、一本橋は渡りにくい」と言うと、息子はまた「あなた、今、何と言いました?」と聞いた。その人が「二本橋は渡れるが、一本橋は渡りにくい」と答えると、息子は「あなたの言葉はとてもいい、銀二両あげます」と言ってこれも覚えた。

 息子はまた行くと、今度は男が喧嘩している。息子が見ていると、喧嘩の一人が相手に「待っていろ、何時かお前を訴えてやるからな」と言った、早速、息子は「あなた、今、何と言いました?わたしに教えてください」と聞くと喧嘩の一人が「俺はあいつを訴える」と言った。
 息子はそれも覚え、これだけ覚えればもういいと許嫁の実家へ行くことにした。 

 許嫁の実家の家の門へ来ると鷹が飛んでいた。そばの人が鷹を見て「一鳥林に入り、百鳥声なし」と言ったので、息子はこの言葉も覚えて門を入ると、義父は馬鹿婿が来たと黙っていた。
 息子は庭に入ると一呼吸おいて、「一鳥林に入り、百鳥声なし」と言った。義父はこれを聞いて“オ−これは文語調だ”と思っていると、つぎに息子は周りを見ながら「木を切った所には身の置き場がない」と言った。
 “アレ−、婿は座る所がないと言っている”義父は家人に椅子を持って来させ婿を座らせた。

 そのあとで義父がつまずき義母の腿の上へ倒れると、息子は「ホ−、雌牛が雄牛を担いだ、鞭でけしかけよう」と言ったので、義父はびっくりして立ち上がり、「誰か早く来て、婿さんに料理を出せ」と言うと、家人は急いで料理の支度をした。
 許嫁の妹は「箸を一本だしてやろう、お婿さんどうするかしら」と食卓に箸を一本おいた、息子は一本の箸を見るとすぐ「二本橋は渡れるが、一本橋は渡りにくい」と言った。

 これを見た義父はこの婿は馬鹿じゃないと、家人に「どうして箸が一本なのだ、早くもう一本持って来い」と言いつけた。
ちょうどこの時、許嫁の娘が赤い衣裳を身につけて入って来た、息子は「ホ−、赤足イナゴ、何処へ行く、飛んで飛んで誰の嫁になる」と言った。義父は“この婿は本当に馬鹿じゃない、下手なことはできない”と考えた。

 食事がおわり義父は息子を門まで送ると、息子は腿を叩いて「いずれ、わたしはあなたたちを訴えます」 “エッ、いずれ、わしらを訴えるだって、そりゃ大変だ”義父は驚き慌てて「怒らないでくれ、婿さんが何時いつ式を挙げると言えば、わしらはその日に娘をあなたの嫁として送り出すから」と言った。
 そしてそのあと本当に娘をこの息子に嫁がせた。 

          撫順市巻下                                        1996・3・3  はじめに戻る