三年酒と五年鶏

 高占武はみなし子であったが働き者で真面目な仕事のできる好青年であった。同じ村に趙春秋という娘が五十を過ぎた母親と住んでいた、たいして金はないが暮らし向きは悪くなく、母親は何時も気に入った婿が欲しいと思っていた、それには働き者で真面目、人情もあり道理もわきまえている高占武は願ったりかなったりの青年なので母親は高占武に婿入りの話をした。高占武にしても自分は独り身で家も財産もない、それに相手の娘が器量よしであれば言うこともない、すぐ婿入りに同意して結婚した。

 結婚した二人はいさかいもせず互いに好き合った。だが高占武は妻恋しと未練がましく何時までもぐずぐずしていられない、何年か働きにでて金を稼いで来ようと考えた。義母も婿に金をだし、商売を覚えさせようと東北地方の雑貨商に住み込ませた。
 三、四年の時がたち、高占武は金もできたので、店の主人に「旦那、家の女房と義母に会って来ます」と言った、主人は高占武が義理堅く真面目に働くので、またきっと帰って来てくれと破格の金を渡し「かみさんに金と何か買って行け、お義母さんにも何か物を買って帰り孝行して、水入らずの話をして来るがいい」と言った。高占武は喜んで土産を持ち楽しそうに家へ帰った。

 高占武は道を急ぎ、一か月もかからず真直ぐ家に帰り着いた。義母は婿の帰りを喜び、妻も笑顔で迎え互いに喜んだ。隣近所の人々もそれぞれに来ては東北地方の様子を聞きに来た。夜になって義母は「さあ,お客はみんな帰った、婿さんが帰って来たのだからわしが料理を作ってご馳走しよう」と言って、五、六年たった爪の大きい鶏をつぶした。酒は妻も義母も飲まないから、三年前の結婚式の時の酒がまだあった。この鶏を煮て食べ、酒をあたためて飲み、やがて寝ることになったが部屋がないので老母は外に泊まりに行った。 

 翌日朝早く老母が帰って見ると、娘は食事の用意をしているが婿の姿が見えない、何処へ行ったんだろうと娘に「婿さんは」と聞いた「あたしはご飯の用意してたから、気がつかなかったけど、着替えもしていないし、何処へ行ったのかしら」とあちこち捜してみたが何処にもいない。老母は不思議がって「お前、まさか婿のいないうちに浮気して、誰かに婿を殺させたのではないだろうね」 「おっかさんたら何言ってるの、わたしがどうしてそんなことするの」と言った。

 一日、二日と十何日たっても高占武の姿は見えない。とうとう老母は実の娘が婿を謀殺したのではないかと疑い、娘を連れて県の役所に訴えた。役人は「お前が夫を謀殺したのでないなら、どうして高占武はいなくなったのだ。夫婦で寝ていて夫がいなくなったのがわからない筈がない」 「いいえ、わたしは本当に知りません」 「知らぬと言うなら、拷問にするぞ」と縛られて水につけた皮の鞭で“ビシビシ”打たれ、全身傷だらけになった、娘は悲鳴をあげ涙を流して「わたしは本当に知りません」と言うが、拷問は続けられた。最後には仕方無くウソの自白をするしかなかった。夫を殺害すれば死刑である。県は州の役所に報告し長官の裁決を待って処刑することになった。

 趙春秋は毎日牢の中で「母はわたしを信じないが、わたしは無実の罪を晴らしたい」と泣いた。それでも老母は娘をじっと見るだけで何もせず、趙春秋はウソの自白書に署名してしまった、しかし自白が変わるので県の役所は州の長官にそれを伝えた、長官はこれを見て筋道が通らぬと趙春秋を州に呼び出し詳しく審問した、「お前たち夫婦は仲がよかったか」 「はい」 「帰って来た夫と喧嘩はしなかったか」 「していません、わたしが翌日朝早く起きた時夫はまだいました、わたしが掃除し朝の支度をしているうちにいなくなったのです、獣が入って来て、夫をくわえて行くわけはありません、どうしたのか着替えもしていませんでした」と答えた。

 これは謎である、この事件に決着をつけるべきか否か長官は迷った。決着をつければ死刑だ、決着をつけなけば人がいなくなった事実はどうなるのだ、長官は家に帰り父親に相談した。長官の父は医者で「それなら訴えた老母を呼べ」と言った。
 老母は州の役所に呼ばれると婿の仇を討ってくれとしきりに嘆願した。「わかった、どういうことかみんな話せ」 「お役人さまわたしの婿は三年出稼ぎに行っていました、夫婦が仲よかったのはわかっていましたが、突然婿がいなくなったのです、これを訴えずにはいられません」 「お前の婿は帰ってから誰を訪ね、何を食べたか」 「近所の人や親戚の者は来ましたが、外では何も食べていません」 「そうか、それなら帰ってきて何を食べさせたか」 「わたしは鶏の肉を煮てやりました」 「ほかに何か用意したか」 「何も作っていませんが、三人なので沢山食べました、それから婿は酒も沢山飲みました」 「何の酒だ」 「白酒です」 「家に行って見てみよう」と長官は老母の家を見に行った。

 家へ行って調べて見ると酒はまだ残っていたが鶏の肉は残っていなかった、一緒に来た長官の父親は、寝台の羊毛の敷物を見ると「何処に寝たか」と聞いた「この上に寝ました」 「そうか」と長官の父親はわかったというふうで「食べた鶏は何年たっていたか」と聞いた「五年あまりたっていました」 「酒は」 「婿の結婚の時の酒ですから三年たっています」 「あ、わかった」と長官の父親は言って「お前は婿に三年たった酒を飲ませ、五年以上たった鶏の肉を食べさせた、そしてお前の婿は羊毛の敷物の上に寝た。それで高占武は溶けたのだ、骨までみんな溶けるが、歯だけは残る」 「そんなことがあるのですか」 「捜せ」と敷物の上を掃くと細かなゴミの中に小さな歯のかけらがあった、高占武は大きな歯がなくなる程に溶けてしまったのだ。「これは無実の自白だ」と長官の父は言った。老母は腕を振るわせ「わたしは娘を無実の罪にしてしまった」と泣き叫んだ。こうして趙春秋は釈放された、老母は娘を連れて家に帰った。

 趙春秋は呆然としていたが老母と泣きながら家に帰った。そのあとで長官の父親が来て「お前たち信じられなければ、敷物を明るい所にかけて透かして見るがいい」と言った、そうして見ると、アッ、確かに一人の人間の姿が油の染みた影になって見えるではないか、すると長官の父は「これは古代の医書に説かれているのだ『三年酒、五年鶏は羊の毛に溶けるとな』お前は娘を無実の罪で殺さず済んだ、よかったではないか」と言った。  

            撫順市巻下                                      1996・2・17

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