張将軍の署名の秘密

 張将軍の部下に唐という秘書がいた、常に将軍に従い、賓客の接待、商談の事務はもちろん、金融業者への金の出し入れまですべての処理に関与し、将軍も十分信用していた。 唐は将軍の内部事情を知り尽くし、将軍が金融業者にどれだけ貸し借りがあるかまでわかっていた。

 しかし、唐はいつまでも張将軍の手下でいるような男ではなかった。実は何時か張将軍の署名の字体を真似て金を引き出し高飛びしてやろうと機会を狙う男であったのだ。それで暇さえあれば張将軍の署名の模倣を練習していた。こうして長い間にうまく真似できるようになり、それを実行する日を待っていた。

 ある日、張将軍が唐を外へ用事に出した、その時、唐は張将軍の字体を真似て領収書を作り“張作霖”の三字を署名して金融業者に持ち込み、張将軍が至急金がいると言っていると伝えた、番頭はそれを見ると張将軍の署名であり、将軍の秘書がじかに取りに来たので書かれた通りの金を出すと唐秘書はこの金を持って高飛びし行方が知れなくなった。

 あとで、金融業者の番頭が軍営に来て将軍と帳尻を合わせた時、張将軍は署名を一枚一枚調べ、唐秘書が真似て書いた署名の一枚を見つけ「これはわしの署名ではない、こんなものでわしを騙せるか、馬鹿野郎」と怒った、番頭はびっくり、慌ててこの署名を見ると追従笑いをしながら「将軍、これはあなたの唐秘書が将軍の署名を持って至急金がいると来られたので、わたし共はおくれては大変とすぐお渡ししたものです」と答えた。張将軍はこれを聞いて、自分の署名を真似て唐が騙し取ったのだとわかり、口惜しがって怒り、番頭をひとしきり怒鳴り飛ばした。

 それから、張将軍は他人に自分の署名を真似されることを恐れ、署名を書く筆の中に一本の針を入れ、誰にも見えないようにしておいて、署名を書くと最後の字の最後の一筆を書く時、力をいれて筆を押し、密かに“眼”(針の穴)を誰にもわからないようにつけた。そして金融業者の番頭が帳尻合わせに来ると、張将軍は“眼”のない署名があると、これは自分の署名ではないと言った、やがて張将軍が用いた署名の秘密が漏れ、人々に知れるとみんな「張将軍にも、こんな機知があったのだ」と言った。    

             沈陽市巻上                                     1996・2・13

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