知恵は歳によらない
昔、一人の農民が市場へ行った、とても賑やかで、あちらを見たりこちらを見たりしているうちに日が暮れてきた.。街道を歩いて帰るのは回り道で暗くなってしまうと考え、川に沿った近道を行くことにして細い道をどんどん行くと、「助けてくれ!」と声がする、あたりを見ても人はいない、ふと川の中を見ると二三寸の小さな酒壺があり、声はそこから聞こえてくる。
農民は壺を拾い蓋を開けると“パッ”と一寸くらいの小人が出てきた、小人は風にあたって揺らぐとたちまち、がっちりした身の丈八尺もあろうかという妖怪になった。太い毛は耳までおおい、牙は鋸のようだ、農民はびっくりして声もでない。
妖怪は「お前は俺を救ってくれた、礼を言うぞ」と言った、農民が「いいえ、いいえ」と言うと、妖怪はまた「お前、俺を最後まで助けてくれ、俺は五百年も何も食べず腹が空いている」と言った。農民が饅頭を二つだしてやると「俺は人間が食いたいのだ、お前を俺に食わせろ」 「助けてやったのにどうしてわたしを食べるのですか、こうしましょう、あとから来る三人の人がみんな“食べられろ”と言ったら食べられます、“食べるな”と言ったら駄目ですよ」 「よしわかった」
夜になって杖をついた老人が来た、農民は老人に走りよって「お爺さん、頼みがあります、助けてください」と言って、ことのあらましを話した。老人は妖怪を見て『変なことを言えばわしまで食べられてしまう』と思い「食べられろ、食べられろ」と言って逃げてしまった。二人目を待っているうちに妖怪は農民を早く食べたくて長いよだれを流していた。
しばらくして、鎧かぶとに身を固め、腰に刀をさした騎馬武者が来た、農民はこの人こそわたしを助けてくれるだろうと、前に進むと丁寧にお辞儀をして、助けてくれと頼んだ、騎馬武者は妖怪を見て、とてもかないそうもないとばかり、躊躇せず「食べられろ、食べられろ」と言って逃げてしまった。
三人目を待っていると、腰に縄をはさみ手に鞭を持って、五六頭の羊をつれている十二三歳の男の子がやって来た。農民は三人目が子供だと分かると泣き出した。男の子がどうして泣いているのかと聞くと、農民はそれでもひと通りのことを話した。妖怪は男の子に「食べていいか、わるいか」と聞くと、男の子は「それよりこんなに大きいお前がどうしてこんな小さな壺に入っていたんだ、本当かどうか、あたいに見せてくれ、そうすれば、あたいの羊も食べていいよ、それでも足りなかったら、あたいも食べていいよ、だから本当かどうか見せてくれ」と言った。
それを聞くと妖怪は「ハッハッハ」と大声で笑い、小さな壺の中にもぐり込んで見せた。その時、小さな羊飼いは“パッ”と壺に蓋をかぶせ、腰の帯で壺の口をしっかり結んでしまった。それから大きな石を拾うと壺にくくりつけて、“ドカン”と深い穴の中に投げ込んだ。男の子は農民を振り返り「何時まで泣いているの、おじさんは助かったんだよ」と言った。農民は男の子に命を救ってくれた恩人だと叩頭の礼をした。
これが『知恵は歳ではない、知恵がなければ百歳も無駄』と言うことである。
撫順市巻上 1996・1・22