新郎を奪う
昔、科挙を受けに都へ行く若い学生がいた。母親が「都はひどく乱れているそうだから結婚式を挙げてから行っておくれ」と言った。
両家はどちらも金持ちで、喇叭を鳴らして盛大に式を挙げた。親戚友人たちが帰ったあとも若い二人は喜んでいた。新郎は「ちょっと散歩して、それから床入りする」と言って、門を出ると、騒ぎ立てながら男たちがきて無理やりに新郎を連れて行こうとする。
「何をするのだ」 「ご主人がわしらに新郎を奪えと言うのだ」 「今、家で結婚式を挙げたばかりのわたしをどうすると言うのだ」 「今晩は特別だ、女はいらない、男がいるのだ」と言って男たちは学生を捕まえると、ある家に連れて行き、すぐその家の娘と結婚式を挙げさせた。若者は“結婚式が終わったとたんに捕まってしまったが、ここは誰の家だろう”と考えた。
新居に入ると娘は少し酒を飲んでふらふらしている、若者は娘が寝てしまったのを見るとそっと抜け出したが、大門は閉まっているので庭の裏門から逃げ出した。
しばらく行くとまた男たちが来て「これはいい婿さんだ、お嬢さんが待ってるから、早く捕まえよう」と若者を囲み、またホイホイと屋敷へ連れ去った。屋敷に着くと男たちは「とてもいい若い学生を捕まえてきたぞ」と声をあげた。その家の娘はとても喜んだ。この家ではもう結婚式の準備ができていて、すぐ若者と娘を式場にいれ酒を交わして式を挙げた。
若者は何もわからず逃げるにも逃げられず、召使に無理に押されてまた新居に入った。若者は綺麗な娘を見ると「わたしは家で妻を娶り、さっきまた結婚式をしました、そしてまたです、わたしはみんな名前も聞いていません」と言った。
娘は「聞かなくてもいいわ、ゆっくりして」とまた酒を勧めた。「飲みません、また飲めば酔ってしまいます」すると娘は笑いながら「あたしたちは新居に入ったからもう夫婦よ、あたしの家には大きな財産があるわ、あなた何か気にいらないことがあるの」などといろいろなことを話しているうちに夜になった、若者はもう逃げられないと思い、娘に酒を注ぎ自分も飲んだ、娘は酒が飲めずあまり酔わない、二人は床に入った。娘は夫ができたと安心して眠り、若者は逃げようと考え、また抜け出して逃げた。
この町ではどうしてこうも新郎がさらわれたのか。それは陏の煬帝が揚州に下るのに陸路の運河を行く船を引かせる若い男女五百人を徴用しようとしていたからである。明日は役人が十六歳から二十二歳までの嫁に行ってない娘、まだ妻を娶っていない若者を軒並みに捜し、もし出なければ首をはねるのである。まだ結婚していない若者や娘のいる家がどうして慌てずにいられようか。それで一晩のうちに誰もが新郎を探したのである。
真夜中になって若者はまた逃げ出した。するとまだ娘に新郎が見つからないある長者がこの若者を見つけ、これはいい若者がいたと、また捕まって家に連れて行かれ、式を挙げ新居に入った。
若者が「わたしは結婚式を挙げたばかりにまた別の結婚式を挙げ、またまた結婚の酒を飲みました」と言うと、娘は「多くてもいいわ、何番目の妻でも結婚して夫がいれば船をひかなくてもすむから」と言った。それでも若者は家に帰りたいと考えたが逃げられない、若者はこの娘と梨や桃などの果物を食べているともう夜が明けてきた。庭を見ると木がある、若者は娘のすきを見て、木に登り塀を越えて逃げ出した。
さて、県知事の家にもまだ結婚していない十八九歳の娘がいたが、まだ新郎が見つかっていない、明日は若者たちに船を引かさねばならないが、県知事であっても娘をそれに加えないわけにはいかない。知事が外に出るとこの若者に出会った、見ればなかなかいい青年だ、さっそく役所に連れて行った。
若者は何処に行くのかわからないでいると奥の部屋でまた知事の娘と結婚式をさせられた。若者は「今日わたしは四回、結婚式を挙げました、あなたをいれると五回です、どうしても夫婦の新居には入れません」と言うと娘は「あたしはあなたの第五夫人になります、そうしなければ明日あたしは船を引きにいかなければなりません、あたしの父は役人ですから皇帝の命令に反することはできないのですが、結婚すれば行かないですむのです」と言った。若者はそれを聞いて仕方なくこの娘と新居に入った。すでに明るくなっていて塀を越えて逃げることはできない、娘と床に入った。
初めの家では新郎がいなくなったので探し始めた、第二の家でも探した、第三、第四、の家でも探し始めた。そして県知事に新郎が逃げ出して娘が家でずっと泣いていますと訴えると、知事は「わしの娘にも新郎がいないのだ」と言って訴えを審理しないでいると夜が明けてしまった。若者は逃げ出したくて外に出た、誰も外に出ようとする若者をとめなかった。
県知事に訴えに来た四軒の家人は若者を見つけると、それぞれに「これはわたしの娘の婿です」と言い出し、県知事をいれるとみんなで舅が五人になった、若者は「この人たちがみんなわたしを婿だといいます、どうすればいいのですか」 県知事は「この五人はみんなお前の妻とし、先に結婚式を挙げた新婦を第一夫人とする、皇帝は五百人の若い男女を徴用しているが、お前たちは行かなくてよい、妻たちはそれぞれの家に住めばよい、それでよいか」と言った。
どの家でも県知事のこの言葉を聞くとみんな同意した。
撫順市巻上 1996・1・18