秦の始皇の宝の鞭  

 ずっとずっと昔、天空には十三の太陽が順番に回って地上を照らしていた。人は一日七十二回の食事をしてもまだ多くの人が飢え死にし、恨みを持った幽霊が地上にうごめいていた。この様子を城隍の神、土地の神、山の神が玉皇大帝に報告した。

 玉皇大帝は「死人が多く白骨が山になってはいけない」と言い、「この宝の鞭で十二の太陽を昆倫山の洞窟に閉じ込め、残った一つの太陽で地上を照らすようにして来い」と天神楊二郎を遣わした。
 楊二郎は玉皇大帝の宣旨を受けると、すぐこの鞭で十二の太陽を追い、みんな昆倫山の洞窟に封じ込め一つの太陽にした。それから暗い夜と明るい昼ができ、人は疲れ死にも飢え死にもしなくなった。
 楊二郎は太陽を追い、行ったり来りして喉が渇き、井戸で水を飲もうと、鞭を井戸のそばの垣に置いてゴクゴクと水を飲んだ、飲みおわると体を起こし、口を拭いて歩きだし鞭を忘れてしまった。

 ある日、朝廷の侍女が井戸に水を汲みに行くと、アレ、井戸の垣の上にキラキラ光る鞭がある、宝物があればすべて皇帝に差し出し、自分の物にすることはできない、自分の物にして皇帝に見つかれば斬り殺され、累は九族にも及んでしまう、侍女はすぐ宝の鞭を秦の始皇帝に差し出した。
 始皇帝はこの宝の鞭を受け取ると、「オ−、これはいい鞭だ」と言って、大きな山を海の中に追い込んだ。

 海の龍王はこれに不満で、すぐ玉帝に「玉皇大帝、あの秦の始皇が何処で宝の鞭を手に入れたのか分かりませんが、山を海に追い込んで海を全部埋めています、どうしたらいいでしょうか」と奏上した。玉帝はこれを聞くとすぐ楊二郎を呼んで問い質した、そこでやっと楊二郎は思い出して「アア、忘れた、水を飲んだ時、鞭を井戸の垣に忘れたのだ、どうしたら鞭を取り返せるだろうか」と嘆いた。すると龍王が「こうしよう、わしの三番目の娘に取り返えさせよう」と言った。

 こうして龍王の三女は美しい娘に変わり朝廷の宮殿の門に行った。ちょうどそこへ秦の始皇が出てきて、なよなよ歩くまるで鳳凰のように美しいこの娘を見た。始皇はすぐ文武の大臣に娘を宮殿の中に入れるように言いつけた。そして龍王の娘は始皇の皇后になった。
 龍王の娘は皇后になると始皇に「みんなが、あなたは宝の鞭を持っていると言っていますが、あたしには見せたくないの、わたしとあなたはもうこんなに長く一緒にいるのに、まだわたしを信じていないのですか」と言った。そこで秦の始皇は宝の鞭を出して見せた。龍王の三女の皇后は、始皇が何処に鞭を置くかと注意していると、昼間は鞭を体から離さず、夜寝る時は枕の下に置くとわかった。

 ある日、始皇が寝ると龍王の三女は鞭を引き出して、そっと抜け出した。始皇が起きて見ると鞭がなくなり、皇后もいなくなっていた。始皇はやっと鞭が皇后に持ち去られたことがわかった。  

付記 
 この物語りは語り手が実家の祖父から聞いたと言う。南北朝時代の梁の人、殷芸の著作<小説>の一書の中に「始皇が海に陽が昇るのを見ようと石橋を作った。その時、神人が石を追い立てて海に入れた、石が遅いと神人は鞭で打ったので、みな血を流し陽城山の上の石が今に至るまでも赤く、東に傾いているのである」とある。相互に参照するとよい。  

           撫順市巻上                                      1996・1・14

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