散財童子

 昔、金持ちがいた、土地家屋敷、財産は数えきれず、金銀は山のようにあった。だが金持ちは朝から晩まで溜め息ばかり、何故かというと、この家には財産はあっても後継ぎの子供がなかったからである。

 夫婦はもう五十になろうというのに、蛙さえ生まれない。子供が生まれないので金持ちは何時も女房を「この用なしめん鶏、巣をひとり占めにして卵も生まぬ」と罵り、何人も若い妾を持った。が、やっぱり子供は生まれない。不思議なことにこの家に来ると、妾でも誰でも何でも子供を生まなくなるのである。めん鶏さえ卵を生まなくなるのであった。
 金持ちは神さまに占いをたて香をたき、「子授け女神さま、わたくしに子供をお授けください、そうしなければこうして女神さまに香を捧げる者すら一人もいなくなります、ある日わたしが死んで目を閉じたら、こんな多くの財産を誰に伝えればいいでしょう?」と方々の子授け女神に一日中叩頭の礼を尽くして祈願した。  

 すると、不思議にも女房に本当に息子が生まれた。金持ちはまるで笑いに支え棒をしたように笑い続け、嬉しくてしょうがない。
 けれども、金持ちが笑いで口が閉まらないように、この息子は何時までも口を閉めずに泣き叫んだ。一か月、二か月、三か月一日中泣いている。どんなにあやしても駄目、誰が抱いても泣きやまない、家人はみんな気持ちを乱され、ゆっくり眠ることもできない。息子は一歳になってもやっぱりこんな風に泣いて笑顔を見せることがなかった。

 金持ちの夫婦はどうしてこの子は泣くばかりで笑わないのだろうとずっと心配していた。
 ある日、婆やがこの息子にご飯を食べさせているうちに、うっかりちりれんげを落として割ってしまった、婆やは金持ちがだいじにしているちりれんげだから、どんなに怒鳴られるだろうと驚いてガタガタふるえていると、思いがけなくも息子はカチャとちりれんげの割れる音を聞くと、ハハハと笑い出した。

 これで金持ちは甘い蜜をなめたように喜び、婆やが驚いているのに「もう一つ割れ、もう一つ割れ」と言った、婆やがまたわざとちりれんげを下に落として壊すと息子はまた笑った。ちりれんげを壊しても笑わなくなると、それから金持ち夫婦はいろいろな物を壊しては息子を笑わした。盆を壊し、盆を壊しても笑わなくなると、瓶をぶつけて壊し、瓶でも笑わなくなると、もっと金めの高い物を壊した。
 宝石をちりばめた玉器などみんなぶつけて壊した、息子は金高のはる物を壊せば壊すほどよく笑い喜んだ。金持ちは息子をただ喜ばせるだけで何も考えずに物を壊したから何年もしないうちに金持ちの大小の蔵はすべてなくなり土地と金銀がのこるだけになってしまった。

 息子は成長してやがて青年になった。
 ある日、青年になった息子は何の理由もなく、また泣き出した、十八、九の青年になった息子はほかと比べようもないほどゴウゴウと泣いた、老父母は何もわからず小さな声でそっと「わしの命のような息子やどうしたんだい、何か病気かい」 「あたしの可愛い息子や、なぜ泣くの、言ってごらん、何かしたいことがあればわしらが何でもしてやるよ」と言った。
 息子は「目をつぶると家の周りの土地に血が流れ、死体や白くなった骨が見える、もう死にそうだ」と言いおわると、悪魔につかれたように床に上を転げ回った。老父は「息子や、お前はたぶん夢を見ているのだ、家の周りはいいところで何処にも血が流れている所や死体があるような所はない」と言ったがなんと言っても息子は毎日泣き続け、まるで家に死人がいるようだった。困り果てた老父はきっぱりと土地を安く売ってしまった、心の中ではどうせ我が家にはまだ何代にもわたって食べられる山のように大きな金銀の塊があるのだからと考えていた。

 土地を売ったあと、息子は泣きも騒ぎもしなくなったが、金を湯水のよう使うようになった。たまりかねた老父が息子に「息子や、家の土地も売ってしまったから、お前が何時までもこんなに金を使ったら財産は何もなくなってしまうよ」と言うと息子は「わかった」と言って本当に金を使わなくなった。
 しかし、こんどは家の外に出ず、床に寝たまま一日中、横になっていて木偶のように飲みも食べもせず話もしなくなった。
 金持ちの老父母はまた困ってしまった、老母は息子を見守りながら、鼻をすすり涙を流して泣き「息子や、またどうしたんだい、話してごらん」と言った、息子はやっと目を開け溜め息をつき力なく「金の雪、銀の雪が見たい」と言った、老父はこれを聞いて「今は六月だから雪は降りやしない、それに金の雪、銀の雪なんて誰も見たことがない」と言うと息子はまた目を閉じ、呼吸をしなくなった、老父母は慌てて命がけで声を絞り出すように「息子や、死なないでおくれ、お前が金の雪、銀の雪が見たいなら、わしの金銀の山で金の雪、銀の雪を見せてやるから」と言った。

 息子はこの老父母の言葉で目を開き、やっと息をするようになり、床から起き上がった。
 息子は人を集め、雲にとどくほどの高い高いやぐらを組ませ、また人を大勢集め、山のように大きい金銀の塊を削りその金片と銀片を高いやぐらに上がって撒いた、オ−なんと素晴らしい景色か、金片と銀片が太陽に輝き、金片と銀片はきらきらと光輝いてヒラヒラと地面に落ちていく、まるで満天の星が落ちるように美しい。

 十里、二十里、百里と離れた所から人々が集まり、この光景を眺め、金片銀片を拾った、やぐらを囲む黒山のような人々の上に金片銀片が降りかかるとこの息子は大きな声をあげて笑った、それはこの息子が生まれてから誰も聞いたこともない不気味な笑いだった。金持ちの老父はぎゅっと目を閉じ割れるような声を上げて「もういい、もういい、この極道者、もう撒くな」と叫んだ。息子はやぐらの上で笑い、老父はやぐらの下で泣いた。

 削ること一か月、撒くこと一か月、とうとう山のように大きい金銀の塊もなくなった。老父は嘆き怒り、床に寝たきりになった。ある日、るり瓦のように青く晴れ上がった空に、突然一陣の狂風が起こり、息子が金片銀片を撒いた地面から火が天へ向かって立ち上がったように昇り、赤くピッカと光ったかと思うと、息子はやぐらの上で息絶え、やぐらも倒れた。

 後になって人々はあの息子は天上の散財童子で、下界に降り金持ちの不正な財産をとりあげたのだと言った。

            沈陽市巻中                                    1995・12・6

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