天下没第一
昔、一軒の木工品を作る店があった。主の職人は王富といい、聡明で腕もよく、十里四方八村はすべて得意先であったが、長い間に心がおごり、店の軒に“天下我第一”(我は天下一)の看板をあげた。
ある時、王富はどこから見ても申し分のない茶卓ができたので、人々に見せたくて店の前に持ち出した。ちょうどその時、身なり正しい老人がしっかりした足どりで歩いて来た。王富は老人の前に進み「ご老人、この茶卓のできはどうです」と聞くと、茶卓を見た老人は「壊して、作り直せ」と言った。王富は思いがけぬ老人の言葉でしらけ、茶卓を店の中にひっこめてしまった。
翌日、王富はこんどはツルツル光った四角の茶卓を作り、嬉しくて茶卓を店の前に出した、すると、またあの老人が店の前に来たので早速「ご老人こんどの茶卓はどうです」と聞いた、老人は念入りに見てから「間に合わせの仕事だな」とはっきり言った。
これを聞いた王富は癪にさわったが、この老人が全く面識もないのに二度もこんなことを言うのは、きっと何かわけがあると考え直し、怒りを押さて老人を家の中に招き、丁寧にお茶をだしてから「ご老人はどちらのお方ですか」と尋ねると、老人は答えず、後ろを向いて裏の部屋にまわり、そこで王富の妻が満面に汗を流して臼を挽いているのを見ると、すぐ仕事場に行き、しばらくして木のロバをこしらえて来た。
そして王富の妻に「お前さんの代わりにこれに挽かせよう」と言って、木のロバを臼の挽き棒に繋ぎ、ロバの尻をトントンと叩くと、木のロバは臼挽きみちを回り何時までも挽いている、まるで臼の下の麦を食べるようにさえ見える。喜んだ王富の妻は老人に礼を言い、食事をとり何日か泊まってくださいと言ったが、老人は礼を言って断り帰った。
老人が帰ったあと、王富は木のロバを見て「老人の削り方は荒い、俺がもっと綺麗に削ってやる」と言い木のロバを臼からはずして削りはじめた。しばらく削ると王富は前よりもずっとつやつやになったので得意になり、また木のロバを臼の挽き棒に繋ぎ、老人のやったようにロバの尻をトントンと二回叩いた、しかしロバは動かない、また強く二回叩いたが、やはりロバは動きださない。
王富の妻は悔しがって「あんたがいじくりまわしたから、木のロバが動かなくなったのよ、早くあの老人にお願いして」と言った。
何処へお願いに行けばいいのかと夫婦が慌てていると、老人がまた庭に現れた、王富は前に進み丁重にお辞儀をしてから、今までの事を一通り話した。老人は笑って「木のロバさえ扱えないなら、技など磨がかないほうがいい」と言うと、王富は恥じて頭を地につけた。老人は木のロバのあちこちを動かしてから、ロバの尻を二度叩くと木のロバはまたトコトコと走りはじめた。王富の妻は喜んで「死んだロバがまた生き返った、ご老人の技は本当に天下第一です」と叫んだ。
王富はまるで生きているような木のロバと老人の優れた技を見て、急いで店の軒にかけたあの看板をはずした。すると老人の姿は見えなくなり、ただ家の壁に「天下没第一」(天下一なし)の五文字が記されていた。 王富と妻は顔を見合わせ、何かわからない不思議を感じながら二人で「天下一なし、天下一なし………」とくり返し唱えているうちにその意味がわかり「これは魯班先生がわたしに教え諭してくれたのだ」と言った。
それから王富は着実に腕を磨きその技はだんだんあがり、名工といわれるようになったということである。
沈陽市巻中 1995・11・27