石ころ小僧

 ずっと昔、老父が息子兄弟と上の息子の嫁と一緒に暮らしていた。
 老父は風水の易者で天と地の占いに優れ、周りの村々に知られていた。兄は怠け者で何をしてもずるく人々は腹黒の兄と呼んでいた。弟は善良な人で一日中畑仕事を真面目にこなし、誰かが困って頼みに来れば何でも喜んで手伝ってやるので、人々はお人好しの弟と呼んでいた。

 ある年に易者の老父は大病になり自分で易を立て、もう僅かの命とわかると、腹黒の兄夫婦とお人好しの弟を呼んで「わしの寿命は尽きた、お前たちに残すのは二部屋の家と墓地だけだ。わしが死んだら今晩夜半の時刻にお前たち二人で村はずれの北の街道にある槐の木の下に行け、しばらく待ってそこを通るものがあれば、何でも構わずそいつを打ち倒せ、もしそれが金銀財宝に変わればお前たちは一生暮らせる、もしそれが鉄屑だったら、お前たちはそれを鉄の鎖に打って、それをわしの棺桶に結びつけ墓地に担いで行き、墓地の周りをぐるぐる回り鎖が切れた所に穴を堀ってわしを埋めろ。しっかり覚えておけ」と言って目を閉じ天に帰った。

 父親が死ぬとお人好しの弟は、泣き崩れたが、腹黒の兄夫婦は一滴の涙も落とさず、かえってひそかに喜んでいた。
 真夜中になると兄弟は大きな棍棒を持ち、村はずれの街道の槐の木の下に出かけた。だがいつまで待っても何も通らない、腹黒の兄はもう我慢できず「親爺の死ぬ前の話はでたらめで、本当かどうかわからない、もう帰ろう、とんだ目にあってしまった」と言った。
 お人好しの弟は「それはいけない、お父つあんは嘘を言ったことがない、もう少し待とう、まだ時間がきてないのかもしれない」と言い合っていると、猛然と街道の西から馬のひづめの音が聞こえたかと思うと、栗毛色の馬に乗った紅い鎧兜の猛々しい騎士がチカチカと光り輝きながら走って来た、弟は棍棒を振り上げ打ちかかろうとすると、兄は小さな声で「お前は本当に馬鹿だな、これは強い武将だ、もし打ちそこなえば、俺たちの小っぽけな命はおわりだ、止めとけ、災難を起こすな」と引き止めた。そうしているうちに、騎士は行ってしまった。

 するとまた街道にひづめの音が聞こえてきた、兄弟が目をこらして見ると、白い馬に銀の鎧兜に光り輝いた騎士が乗って走って来た、弟が打ちかかろうとするとまた兄に引き止められた、こうしてまたたく間に紅、白、黄、灰色の四頭の馬と騎士はみんな通り過ぎてしまった。

 とうとう、お人好しの弟も本気になって怒りだすと、こんどはパカパカとゆっくりした馬のひづめの音がしてきた。兄弟が目をこすって見ると、形の悪い一頭の枯れ枝のように痩せた年とった青毛の馬が歩いて来た、馬には青い服に短い上衣を着た老人が乗っている、弟はこんどこそと身をおどらせ、棍棒を振り上げて人と馬に猛然と打ってかかった、腹黒の兄もそのあとから打ちかかった。
 すると“ガバ”と大きな音がして、人と馬はひと塊の鉄屑に変わった。腹黒の兄はこれを見て、舌うちして足を踏みならし棒を放り出し、気を落として「何が金銀財宝だ、これはただの鉄屑の塊だ、こんなこと初めか分かっていたんだ、俺はお前のすることについていけないよ」と言った。

 お人好しの弟は兄の様子を見て「兄貴、ほかのことはどうでも、お父つあんの言いつけだけはやろう、二人で早くこの鉄を鎖に打って貰おう」と言った。そう言われて腹黒の兄はいやいや弟と一緒に鍛治屋に頼んで一本の太い鉄の鎖を作り、村人たちに手伝って貰い死んだ老父を納めた棺桶に鉄の鎖を結びつけ棺桶を担いで墓地へ行った。墓地に着くと二人は村人たちに礼を述べ、兄弟は父親の遺言通り鉄の鎖をつけた棺桶を担いで墓地の周りを回った。
 腹黒の兄はくたびれるので前を担がず後ろを担ぎ、お人好しの弟は小さい時からよく働き力もあるから、どっちでもよかった。ぐるぐる回って疲れた二人はダラダラ汗を流したがそれでも鉄の鎖は切れない、腹黒の兄はどうしてこんな疲れることをするんだと、しばらくすると棺桶を置いて帰ってしまった、お人好しの弟は仕方なく一人で棺桶を引き摺って回り始めた。すると……

 話変わって、腹黒の兄が家に帰ると、まだ座らないうちに女房が口を開き「お父つあんが死んだんだから、あたしたち馬鹿な弟と暮らすことないわ、あいつを何処かに働き出そう、食べるのも多くて一人であたしちの二人分も食べる、きっぱりと追い出してしまえば邪魔がなくなるわ」と言った。夫婦は話を決めると、お人好しの弟がまだ墓地から帰らないうちに、金目のある物を持って女房の実家に運んでしまった。
 弟は家に帰り、手と顔を洗ってご飯を食べようとすると、兄夫婦は何だかツンツンし、嫂は不機嫌な顔で「あんた、ちょうどいいところに帰って来た、お父つあんが死んであたしたち夫婦はあんたと一緒に暮らすのを止めようと決めたわ、あんたは一人、あたしたちは二人であたしたちの方が損だからあんたは分家しなさいよ」と言った。

 腹黒の兄は女房の言いなりだから、弟は嫂の冷たい仕打ちにも「いいようにしたら、俺はどうでもいいよ」と答えるしかなかった。すると嫂は「お父つあんが死んでも何も残っていないけど、家の中や外にある物で何かいい物があれば選んで持って行っていいよ、あたしら夫婦はかまわないから」と言った、弟は家の中や外を見ても何も残っていないので「俺は何もいらないよ、俺の使っていた鍬、つるはし、鋤、シャベルがあればいい」と言った。それを聞いて夫婦は喜んでしまった。そしてその晩、弟は家を出て分家した。

 家を出た弟は一人で父の棺桶を担いで回り、棺桶に結びつけた鉄の鎖が切れた所に、墓の穴を掘った時、土の中から出てきた雪のように白く光った“石ころ小僧”を懐に入れているのをすっかり忘れていた。家に帰って兄夫婦に見せようと思っていたのだが、家に帰ったとたんに兄夫婦にあんな事を言われたから思い出せず、俺は何処へ行ったらいいのか、何処で暮らしたらいいかと考え考え歩いていた。
 ある村を過ぎ、またある村を過ぎると疲れ果てて腰を下ろしてみたが、お腹は空くし、体は冷え耐えられないほど悲しかった。
 すると、胸のあたりが温かくなってきて「ご主人さま、わたしはあなたの懐の中の “石ころ小僧”です。兄さん夫婦の理不尽な態度に悲しむことはありません、困った事があれば私に言って下さい、私の頭の後ろを軽く叩いて、何でも欲しい物を言って下さい」と人の声がする。
 そこで弟は忘れていた石ころ小僧を懐から出すと半信半疑で石ころ小僧の頭の後ろを手の平で叩き「家が欲しい、寝る所があればいい」と言うと、ガ−ンと音がして目の前に庭を囲んだ四棟の家が現れ、中からきちんとした身なりの上品で綺麗な娘が出て来て、お人好しの弟に「あなたどうして入って来ないのですか、これはあなたの家です、わたしはあなたの妻です」と言った。

 弟は目を丸くしてポカンとして目をこすりよくよく見て、自分の耳を引っ張ると痛い、本当だ夢ではない。それから若い二人はお互いに愛しあって暮らし始めた。何か欲しい物があれば“石ころ小僧”に出して貰い、暮らしに余裕が出てくると、石ころ小僧の頭を叩き幾らかの銀貨を出し、村の困っている家を助けてやった。これが周りの村に伝わり、村人はみんなこの若い夫婦を優しい夫婦だと言った、そして幸せな日を送った。

 ある日、村に女の乞食が来た、弟が何か恵んでやろうと女を見ると、なんと嫂であった、弟は嫂を家に連れて帰り、妻を紹介し食事を用意し、新しい着物に着換えさせた、嫂は弟夫婦が自分を恨まずかえって歓待してくれたので恥ずかしくなった。
 帰る時、弟は妻に銀貨を入れた小さな包みを用意させ嫂に持たせ、兄が心を入れ替え、でたらめをしないように助けてやってくれと言った。嫂は一つ一つうなずき喜んで帰った。

 嫂は家に帰ると、お人好しの弟が石ころ小僧という宝を手にいれ大金持ちになったことをひと通り夫に話した。これを聞くと、腹黒の兄は石ころ小僧を借りてくれば大金持ちになれるのにと言うと、女房もその気になりすぐまた弟の家に行き、涙を流しながら「銀貨を家に持って帰ったらあんたの兄さんはもっと欲しがるのよ、あんたが兄さんとわたしに真心があるなら、あたしたち夫婦に宝の石ころ小僧を貸しておくれ、わたしら夫婦が銀貨をだせば、あんたたちも面倒がなくなるでしょう」と言った。

 弟は貸したくなかったが、いろいろ考えた末、兄夫婦に三日だけ貸すことにした。嫂は喜んで石ころ小僧を家に持ち帰った。
 兄夫婦は嬉しくって「わしらには宝がある、これで大金持ちになれる」と大声をだした、夫は「金持ちになったら何でも買う、村の家を全部買ってわしの物にすれば、村は思い通りになり、わしらは永遠に金持ちだ」と言って大きな篭と大きな棒を持ってきた。
 女房は「弟夫婦は小さな袋をだして手で叩いたのに、こんなに大きいもので大丈夫」と言うと、夫は「小さくては駄目だ、あいつらが石ころ小僧を手で叩き小さな袋を用意するのは、金を出すのではなく遊んでいるのだ、わしらは金が欲しいから大きな棒で叩き、銀貨が沢山入り、大儲けできるように大きな篭を用意するのだ。しっかり手伝ってくれ」と言った。
 女房は夫に何を言っても無駄だと思い、言う通りにするしかなく、そっと石ころ小僧を腰掛けの上にのせ、その前に大きな篭を置いた。腹黒の兄は大きな棒を持って「俺は金が欲しい、早く吐き出せ」と言ってガ−ンと石ころ小僧の頭を殴った。
 すると大きな音がして石ころ小僧は白い煙りを出し、サッと音がして臼のような大きな銀の塊が飛び出し、兄夫婦にあたり兄夫婦は死んでしまった。

 その晩、石ころ小僧はまたお人好しの弟夫婦の家に戻り、もとのように幸せに暮らしたということである。  

            沈陽市巻中                                    1995・11・16

はじめに戻る