鍵の木
昔、二人の兄弟が狩りをして暮らしていた。兄は長腿、弟は長脚という。
ある日、二人は何時ものように山へ狩りに出かけ、あちこち歩き回っているうちに日が暮れて暗くなり今にも雨が降りそうになったので洞穴を見つけて、ひと休みすることにした。やがて夜になり二人はお喋りを始めた。長腿が「俺たちはこうして毎日狩りをしているが、山には獲物が少なくなるばかりだ、何かうまい金儲けはないかな」と言うと長脚は「うまい金儲けなんてないよ」と言った。
長腿は「年寄りはこの山の何処かに万宝洞という洞窟があって、そこに金の臼や金の子馬があり、天界で罰せられ下界に降りて来た天女が一日中、臼を挽いて金の粒をだしているとよく言うが、俺たちでなんとかそれを持ち出し、天女を嫁さんにできないかな、それに金の馬、金の臼、金の粒がありゃ俺たち二人も楽に暮らせるというもんだ」と言った。
だが長脚は「そんなにうまくいくかなあ、なんでも万宝洞の番人の爺さんが酒に酔って鍵をなくしちまってから万宝洞は開かなくなったと言うよ」と言った、「それなら俺たちでその鍵を見つければいいさ」と話していると、白い髭の老人が来て「お前さんたち万宝洞で金儲けしたいのかね」と言った、「うん」「行くのはいいが鍵はあるのかね」「鍵があればすぐ行くよ」「それじゃあ、わしが教えてやろう。鍵を見つけるのはそんな難しいことじゃない」「でも爺さん、その万宝洞は何処にあるんだい」「万宝洞は鍵がなければ見えないのだ」「その鍵は何処にあるのだ?」「あの山の中ほどに水が涌き溢れている泉がある、それが万宝洞の鍵穴でそこへ鍵を挿せば洞門は開く。鍵はあの大きな山のわきの小山の上にある小さな木だ」「でも爺さん、俺たちにはその山が見えないよ」
すると爺さんは「お前さんたちにはあそこにある小さな木が見えないのかね」と言って指でさすとあたりが明るくなって、二人にはっきりとその小さな木が見えた。「さあ、お前さんたちあの鍵の木に毎日桶三杯の水をやって十年目の今晩、鍵の木を担いで行けば万宝洞は開けられるよ」と爺さんは言うと姿が見えなくなった。
すぐ長腿と長脚は爺さんが教えてくれた大きな山のわきの小山の上の鍵の木を見に行った。鍵の木はまだ指ぐらいの太さで小さな葉が二枚ついていたが、すっかり萎れていた。それを見た長腿は「長脚、お前は家で飯を作ったり、畑仕事をしてくれ、俺は鍵の木に水を運ぶから」と言った。
こうして長腿は鍵の木の水運び、長脚は家の仕事を始めたが、長腿は三日水を運ぶと嫌になり、「長脚、お前飯を作ったら一杯だけ水を運んでくれ、俺は二杯運ぶと肩が痛くなるんだ」と言った、長脚は「いいよ」と言ってその日から長脚は一杯、長腿は二杯の水を鍵の木に運ぶことにした。
ところがまた二日経つと長腿は「俺は疲れて肩が痛くてしょうがない、お前が二杯、俺が一杯の水を運ぶことにしよう」と言い出したので、長脚は毎日飯の支度をし、鍵の木に二杯の水を運び、長腿はただ一杯の水を運ぶだけになった。だが長腿はすぐ一杯の水も運ばなくなり「長脚、お前が鍵の木の水を運んでくれ、俺が家で飯を作るから」と言って、兄弟は仕事を取り替えることにした。
長腿は何日か飯の支度をしたが、それも嫌になり「こんなことやっていられない、あの爺さんの言ったことは本当か嘘かわかりゃしない、狩りに行ったほうがよっぽどいい」と鉄砲を持って出かけた。長腿は山に入るとたちまち一頭の虎を見つけ、“パーン”と一発で虎を撃ち倒しこの虎を売って大儲けした。長腿は金が入ると怠け者になり、食べる飲む賭けるで、瞬く間に一銭もなくなってしまうと、また狩りに出た。
やがて十年が過ぎたある日、長腿の心の中に住みついた賭銭鬼が夢に現れ「おい長腿、俺はお前と悪運を賭けてきたのに、金儲けはどうしたんだ、しないのか」と長腿を唆した。長腿はハッと目を覚まし「そうだ、あれから十年たったが、長脚がずっと水をやっていれば鍵の木は育っているはずだ、見に行って育っていたらなんとかして俺のものにしてやろう、長脚の奴のことだ、水をやってないないわけはあるまい」と考えると長腿はすぐ出かけ、鍵の木の山に登り遠くから見ていると長脚がゆっくり水を担いで登って来る、鍵の木は両手で抱えるほどに育っている「ようし、明日がちょうど十年目だ、あの鍵の木を長脚が持って行かないようにあいつを殺してしまおう、そして俺が鍵の木を持って行き天女を嫁にして宝を取ってやろう」長腿はそう考えるとそっと山の陰に隠れた。
さて、長脚は鍵の木に水をやって十年目になった真夜中、鍵の木を撫でながら“斧も鋸もないがどうして鍵の木を倒せばいいか”と考えていると、自然に鍵の木の葉が散り枝が三つに分かれ鍵の形になった。長脚は喜んで鍵の木を担ぎ、下り坂になった山道をゆっくり歩いていると、長腿が忍び足で近づき、長脚を谷底に突き落とした。長脚は担いだ鍵の木を落しダダダッと谷川の早い流れの中に落とされてしまった。
こうして長腿は長脚から鍵の木を奪い、喜んで宝を探しに出かけた。
長腿が山の泉につき鍵の木を泉の中に挿すと、ガーと大きな岩の門が現れた、奥を見ると金の子馬が繋がれ、天女が金の臼を回してパラパラと金の粒を出している、洞窟には金銀や宝の貝、霊薬が数えきれないほどある。長腿は洞窟の中に入って金の臼を取り、金銀財宝霊薬を袋に入れ、鍵の木も金の臼も曳き出した金の子馬の背中に縛りつけ、片手に金の子馬を曳き、片手に天女の手をとって洞窟の外へ歩き出した。
ところが天女は洞窟の出口に来ると岩の門を掴んで放さない、長腿は懸命になって天女を岩の門から放そうと引っ張っていると、こんどは金の子馬が暴れだし、背中につけた袋を振り落とし、金銀財宝は散らばり、霊薬はすべて谷川に落ち流れてしまった。思わず長腿が手をゆるめると天女は逃げ出し、金の子馬は手綱を切って走り出した、長腿は慌てて金の子馬のしっぽを掴んで一気に引っ張ったが金の子馬は逃げてしまい、金の臼も長腿も谷川に落ち長腿は流されて蟇蛙になってしまった。
さて、長腿に谷川へ突き落とされた長脚は気を失って川の水面から首を出して流されていた、すると一粒の霊薬が波に流されちょうど首だけ出して流れていた長脚の口に入った。長脚は「ウーン」と言って気がついてみると、谷川に流されている“どうして俺は谷川に落ちたのだろう”と思い急いで谷川から這い上がり、飛ぶように山の泉へ行ってみると、そこには大きな洞窟があるだけで、中は空っぽ、“何処に金の臼、金の子馬があるのだろう”と長脚が考えていると、天女が笑いながら洞窟の中から出て来て「長脚さん、よくいらっしゃいました、あたしは十年あなたを待っていました、早くあたしをあなたの家へ連れて行って下さい」と言った。
長脚は大喜び、天女の手を引いて洞窟を出た、天女は「長脚さんの家は何処なの」と聞いた、長脚は「あそこに見える茅葺きの家がわたしたちの家だ」と遠くを指差した。長脚と天女は茅葺きの家へ帰り二人は夫婦になった。
長脚は土を耕し、鍵の木を植えた、すると毎年銀の粒がなった。天女が家の前に大豆を蒔くと毎年金の豆ができた。
四老人故事集