草枯れ苗育つ

 昔、むかし、天帝は下界の人間が毎年毎年、田の草を取り畑を耕して、苦労しても十分に食べられないのをご覧になって、ある日、五穀の神を下界に遣わし「これからは田の草取り、畑を耕さないでもよい、ただ田や畑に立って“草枯れ苗育ち田畑にぎあう”と言えばそれでよい」という宣旨を伝えさせました。

 人々はこれを聞いてたいそう喜びました。それからは田畑に立って“草枯れ苗育ち田畑にぎあう”と叫べば、田畑の草は抜け畑は耕され、苗はひとりで生えて育っていきました。こうして人々はもう朝早くから夜遅くまで働かなくてもよくなり、秋になるとどの家でも五穀は山のように穫れ、人々は食べ物がそんなに大切な物ではなくなりました。

 ある年の冬の晩、凍りつくように寒く、人々はみんな家の中にとじこもって、暖まりながら温かいご飯を食べていました。その晩、村の外から枯れ木のように痩せた白い髭のお爺さんが入って来ました。お爺さんはふるえながら一軒の家に入って行きました、家の中には若い綺麗な母親が、ちょうど一枚の薄く焼いた白い小麦粉の餅で赤ん坊のお尻を拭いているところでした。お爺さんは哀れな声で「お内儀さん今晩は。わたしは今日一日何も食べていません、何か食べる物を恵んでくれませんか」と言うと、若い主婦は目もあげないで、うるさそうに「何もないよ、あまった薄焼きの餅で子供のお尻を拭いてるんだから」と答えました。

 するとお爺さんは台においてある薄い二枚の白い小麦粉の餅をさして「お内儀さん、台の上に二枚の餅があるじゃありませんか、あれでいいですよ、あれを食べさせてくれればいいです」と言いました。若い主婦はしばらくじっとしていましたが、怒ったように「あれは駄目、あの二枚は子供のお尻を拭くために冷やしてあるんだからね」と、遊んでいた子供を抱きあげ白い小麦粉の餅の上にのせてしまいました。

 白い髭のお爺さんは目の前で若い主婦がこんなことをするのを見て、本当に怒りましたが、どうしようもないので、頭をふりながらこの家を出ていきました。そして白い髭のお爺さんは歩きながらこう言いました「草枯れ、苗育ち、田畑にぎあい、鋤、鍬、ほったらかし。白い小麦粉の餅で尻を拭く、昔の苦労を忘れたな」 白い髭のお爺さんはそう言って村を出て行くと二度と帰って来ませんでした。

 それではこの白髭のお爺さんは誰だったのでしょうか。そうです、この白い髭のお爺さんは天帝が下界の人間は近頃どうしているだろうと調べさせるために遣わした五穀の神だったのです。五穀の神は若い主婦が白い小麦粉の薄い餅で子供のお尻を拭いたのを見て怒り、天上界へ帰ってからこのことを天帝に報告しました、天帝もこれをお聞きになって非常に怒り、五穀の神に下界の“草枯れ苗育ち田畑にぎあう”の言葉を取り上げさせました。

 それからは人がどんなに“草枯れ苗育ち田畑にぎあう”と唱えても霊験は起こりませんでした。畑の雑草は風になびき、土は昔のようにパンパンに堅くなりました。人々は仕方なくまた鋤や鍬を担いで田畑を耕しました。それから人々は再び食べ物を粗末にすることはなくなりました。 

           譚振山故事選                                     1995・9・14

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