内輪話は姓の違う者にするな

 父親、息子、嫁の三人暮らしの豊かな農家があった。
 ある日、父子で土壁の塀を築く仕事をした。古いさす又は仕事上手な父親が使い、新しいさす又は息子が持った。
 七、八尺泥土を積み上げると、さす又をたてにして泥土に混ぜた藁の小さな茎や根をならし、外側をつるつるに仕上げて土塀の見栄えよくする。それは父親の仕事だが、父親の使うさす又は古くてよく使えない、内側にいる息子にそっちのさす又をよこせと声をかけた。

 塀は高くなっていて内側から外が見えない、本当のことを言えば、息子はぐるっと門を回ってさす又を持って行くべきだったが、歩くのが面倒と、父親の声がしたあたりを避けて、さす又を外に放り投げた、運悪く丁度その時、隣の子供が外に遊びに出て塀の下を歩いていた、さす又がこの子に突き刺って子供は死んでしまった。

 これを見た父親は大変なことをしでかした、これが官府に知られれば息子は間違いなく死刑だ。幸い周りに人の姿はない、毒くえば皿までもと、子供の死体を手早く泥土の壁のなかに塗りこめてしまった。ともかく人に見られていないから隠してしまえば心配ない。

 隣の家が子供を捜し始めたが、父親と息子は子供の血の跡も死骸も片付けてしまったから、聞かれてもちっとも知らないと答えた。隣の家ではくまなく捜したが見つからないので、河に落ちて死んでだのではないかとあきらめるしかなかった。
 隠し通した父親は息子に「このことは誰にもしゃべるな、お前の女房にもしゃべるな」と何度も話して聞かせ気をつけさせた。

 何年か過ぎて、父親は病気になり起き上がれなくなった。やがて父親が死ぬ間際に息子を呼ぶので、息子の女房も亭主について行くと父親は「これからわしが言う言葉をお前は忘れるな“畑を耕し草を生やすな、(不出-chu- 草) 飯はきちんと食え、(吃解飢-ji-) 内輪話は姓の違う者にするな”」と言った。その場に息子の女房がいるので、父親はこの言葉の説明をせず息を引き取った。

 この亭主は親に従順で、生前から父親の言うなりで、死んでからもそうだった。父が死に際に「草とりにすき鍬を使うな(不鋤-chu- 草)」と言ったと思いこんで、人が見ればお笑いぐさだが、草すきに雇う作男にすき鍬を使わせなかった。
 さて、亭主は毎日、鶏を一羽食べた、それは父親が臨終に「飯には鶏を食え、(吃解鶏-ji-)」と言ったと思いこんでいるからだ。こうして亭主は父親の臨終の前の二句は善悪かまわず何とか覚えていたが、あとの言葉は何であったか忘れていた。
 ある日、女房とおしゃべりしていて、隣の子をどうして土塀に塗りこめたかを話してしまった、言いおわってから父親の言葉を思い出して後悔したがもう遅い、息子はすぐ「このことはしゃべるなよ、言ったら俺の命はないからな」と女房に言った。

 女房がしゃべらないのは当たり前だ、女房だって寡婦にはなりたくない、けれども家の当主が雇った作男を監督しない、毎日鶏を食うではいくら金持ちでも持ちこたえられない、みるみる家は没落していった。女房だって我慢できない、何時も些細なことで口争いが始まり、息子が怒って女房の顔を殴って傷つける。ある時、二人ともかっとなり頭にきて、ああ言えばこう言うの争いになり、とうとう女房はあのことを持ち出して「あんたは酷い人だ、あんたたち父子は隣の子を殺して土塀に塗りこめたじゃない」と言ってしまった。

 隣の家がこれを聞き、人の家の土塀を勝手に壊すことは出来ないので、官府に訴えた。官憲が来て現場を見たが、こんなに大きくて長い土塀を壊すのは持ち主が承知しない、それに何処に埋められているかわからないので困ってしまった。しかし長い間、事件を解決してきた捜査官は経験から土塀のしみを発見した、すぐ周りの家の聞き込みをした、すると何軒かの家で「雨が降ったあと、この土塀の外の処はそこそこに乾いているが、そこだけはしっとり湿っている」と言った。
 捜査官がすぐここを壊させると、果たして、死んだ子供の骨が出てきた。官憲はすぐこの亭主を捕らえた。

 知事が審問すると亭主は全てを白状して膝を叩いた、知事が何故、膝を叩くのかと質すと、亭主は「わたしの父が臨終に三つの言葉を残したのを思い出したからです」と言った、知事がさらに聞き質すと亭主は三つの言葉を口に出した。
 知事はひと思案してこの言葉の意味を悟り「わしがその本当の意味を教えてやろう、お前が死んでも恨みのないように、お前の父親は“畑を耕して草を生やすな(不出-chu- 草)”と言ったのだ、お前に面倒がらずに土にすき鍬をいれて畑をならし、草が生えたらすぐ畑をならせと言ったのだ、農家はよく草すきを忘れるからな」
 「“飯をしっかり食え(吃解飢-ji-)”はお前にくだらぬ間食をせず、きちんと腹の足しになる物を食べ体を養え」と教えたのだ。

「“内輪話は違う姓の者にするな”……お前は子供を殺したことを女房に話したろう、お前に聞くが、お前の女房はお前と同じ姓か、違う姓だろう、つまり内輪話は女房にも言うなと言い残したのだ」と教えた。

 亭主はもう何も言えず、ただ子供の命を償うのを静かに待つしかなかった。

 何事も自分が話さなければ、誰にも分からないものだ。   

      李占春故事選                                          1995・8・24

 注・『不出-chu- 草』…『不鋤-chu- 草』    『吃解飢-ji-』…『吃解鶏-ji-』    『有話不告訴兩姓人』                           

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