優しい風が吹き優しい雨が降る

 諺の『優しい風が吹き、優しい雨が降る』(不行清風 難得細雨)には一つの物語がある。

 李家村に娘三人息子一人の李と言う長者がいた。上の娘は挙人(科挙の郷試に合格した人)、中の娘は秀才(郷試の下の試験に合格した人)と結婚したが、下の娘は百姓と結婚した。
 李長者はなに不自由なく暮らしていたが、突然の火災でみるみる全財産を失い、長者も火の中に飛び込み焼死してしまった、ただ末息子の弟が一人残されて暮らしていた。

 ある年、弟は科挙を受けに北京へ行くことになったが、一文の金もなく姉たちに借りるほかなかった。上の姉の家に行き、姉と義兄に「私は科挙を受けに都へ行きたいのですが、一文のお金もありません、どうか旅費を貸してください」と頼んだ、すると上の姉は「お前、あたしたちも困っているのよ、あまったお金はないわ、ご飯でも食べて帰っておくれ」と言って、鶏を捕まえるふりをして、鶏の群れに向かい手を叩くと、鶏は驚いて逃げてしまった、それを見た弟は、姉が本当は自分にご飯を食べさせたくないのだと思い、「いいよ」と声をかけると、すぐ引き返した。

 翌日、李長者の息子は中の姉の家にお金を借りに行った。中の姉は「お前もうちは家族が多いの知っているだろう、食べないわけにはいかないから、お前に貸すお金はないんだよ、今日はうちでご飯を食べて帰っておくれ、本当に悪いね」と言って、網を持って生簀に行き、魚を掬ったが何度掬っても魚は捕れない。姉が魚のいる所に網を入れていないのを見た弟はこれは自分にご飯を出したくないのだ思い、姉に「さよなら」と言って帰った。

 弟は途中で下の姉が畑でとうもろこしをもぎとっているのに遇った、姉は弟を見るとすぐ、家に連れて行った、けれども下の姉の家には一粒の米もない。姉は弟に取って来たとうもろこしを煮て食べさせ、まくわ瓜を出してくれた。弟は姉に「都へ科挙を受けに行きたいけど、一文の旅費もないんだ、姉さん義兄さん、私に少しお金を用意してくれないかな、きっと返すよ」と言った。 「どうしてそんなこと言うの、弟が困っていれば姉のわたしはどんなにしても、あんたを助けるわよ」
 下の姉と義兄は二人とも真面目な人であった。弟が困っているの見て下の姉は思いきって、自分の耳輪と首飾りと結婚の時に持って来た物をみんな売って弟の旅費にし、弟を北京へ行かせた。

 話は飛んで、長者の息子は下の姉のくれた旅費で北京へ行き、状元の試験に首席で合格し文武の大臣はみんな長者の息子を褒め称えた。そして皇帝は長者の息子を兵部尚書に任じた。しばらくして朝廷の重臣馬大人は新しく任命された兵部尚書が任務の処理に優れ、才能のあるのを見て、人を介し自分の娘と婚約させた。こうして長者の息子と馬家の令嬢は華燭の式を挙げた。

 長者の息子は結婚式の二日目の晩に、下の姉と義兄がもし旅費を出してくれなかったら、今日の自分はなかったと思い、起き上がるとすぐに人を派遣して白銀二百両と二人に暇をみて北京に来てくれと言う手紙を下の姉の家に届けさせた。
 下の姉は弟の手紙と白銀を受け取り、弟が状元の試験の合格したこと、結婚したことを知り、夫婦して喜んだ。そして畑仕事の暇に弟に会いに行った。弟は三度三度の食事に七皿八椀の料理を出して下の姉夫婦を歓待した。数日泊まって姉夫婦が帰る時、弟はまた三百両の銀貨を出して姉夫婦に持たせた。

 家に帰った夫婦は弟がくれたお金で土地を買い、家の門前に馬繋ぎを作り、後ろにやや大きい瓦葺きの家を建て幸せになった。
 下の妹が家を建て土地を買ったことが姉たちに伝わり、ある日、二人の姉は妹の家に行った。家に入るとすぐ「お前、何処からこんなにお金を持ってきたの、家を建てたり土地を買ったりして」と根ほり葉ほり問い質した。
 下の妹は正直に「弟が状元に合格して、お金をくれたのです」と言った、姉たちは下の妹と弟は異母妹弟だけど、あたしたちだって父親の同じ姉弟だ、あたしたちも弟の所に行けばお金を貰えるかもしれないと考え、急いで家に帰り、支度をして北京の弟を訪ねた。

 姉二人は北京に着いて、弟を訪ねると弟は歓迎して、好きなようにさせてくれたが、そのほかのことは言わなかった。二人の姉は早くお金を貰って帰りたかったが、かと言って直にお金をくれとも言えない、たちまち半月たってしまい、姉たちはいらいらして弟に「お前、あたしたちは帰るわ、何か用事はない?」と聞いた、「いいえ別に用事はありません、暇があったらまた来てください」 二人の姉は弟が何もくれそうもないので、自分たちで言い出すしかなかった。

 上の姉が「お前、ここ数年あたしと中の姉さんは暮らし向きがよくなくてね、もしお前に余裕があったら、下の姉さんのように、あたしたちにもお金をおくれ」 「姉さん、まだわからないのですか、下の姉さんは科挙を受ける旅費を私に持たせてくれたからそれを返したのです。今日の私があるのは下の姉さんのお蔭なのです。それに私は結婚したばかりで余計なお金はありません」と弟が言いおわると、二人の姉は顔をパアッと赤くしたり、白くしたり、青くしたり、恥ずかしくて何も言わず、しょんぼりと家へ帰って行った。

 これが『優しい風が吹き、優しい雨が降る』(不行清風 難得細雨)の物語で、今でも、人々はこの言葉を使う、意味は『人に優しくすれば、人は優しくしてくれる』と言うことである。   

           姜淑珍故事選                                     1995・8・13

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