人の味がしない

 少年が山で草刈りをしていて、穴ぐらにいた四匹の狼の子を見つけ、持っていた鎌で切り殺し、頭を一つづつ棒に刺して逃げた。
 餌をくわえて帰った親狼がこれを見て目を赤くして怒り、体で棒を押すと、狼の子の頭が一ずつポトリ、ポトリと落ちた。狼は鎌の切り口から草刈り少年の仕業だと知り、すぐ追いかけ、少年の家近くで追いついた。慌てた少年は楡の木によじ登った。
 狼は木に登れないので、爪で木の根をほじくったが土が堅くて掘れない、狼は近くの溜まり水を口に含んで来ると木の根元にザア−と吐き出した、狼は一度に小さなお盆ほどの水を含める。こうして何十回も水を運び、そこの溜まり水がなくなると、少し遠い別の溜まり水の所に行こうとしたが、狼はその間に少年が木から降りて逃げてしまうのを恐れ、口を地につけ“オ−”とうなって仲間を呼んだ。
 すると一匹の狼が来た、二匹になった狼は替わりばんこに水を運び続けた。

 少年は焦って、このやり方だと長い時間には、木はかじり倒される、倒されたら俺の命は終わりだと思い、すぐ逃げる方法を考えた、まずかぶっていた笠をとり蓑を脱いで、そこにいるように笠と蓑を按配して木の枝にかけ、狼のちょっとしたすきに“サア−”と木から降りるや素早く駆け出して家へ逃げた。
 狼は木の下の土に水が十分しみ通ると、爪で土をほり、牙で木をかじった。狼は土をほり、木をかじり頭を上げて木の上を見てはまた、土をほり木をかじり、とうとう“バターン”と楡の木を倒した。

 先の狼も後から来た狼も少年を食べようと、思いっきり蓑にかみつき、さんざんに、かんだりちぎったりして食べたが人の味がしない。後から来た狼は、力を出して助太刀してやったのに、人の味が少しもしないので怒り出し、先の狼と喧嘩を始めた。狼は少年ではなく、蓑をかじっていたのだから人の味がするわけがない。  

           四老人故事集                                    1995・7・17

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