あたしのいい人

 ある男が東北で三年稼ぎ、家に帰ることにした。
 帰ったら女房をおどかしてやろうと、銀貨をしっかり紐でしばり懐にしまうと破れた着物に破れた帽子をかぶり、腰を丸めるようにして「ホイサ、ホイサ」と家へ帰った。

 家に帰った男は女房に「お前どうしていた?淋しかったか」と聞くと、女房はじっとこの汚い乞食のような亭主をみて、心の中で“よくも恥ずかしくなく帰って来たものだ”と思い、返事もしなかった。
 亭主はまた「俺が出かけた年に孕んだ牛は子牛を生んだか」と聞いたが女房は答えない。

 「俺が稼ぎに行く時にいた子豚はどうした?」 それでも女房は答えない。
 「東村の伯母さんはどうしてる?」 やはり女房は答えない。
 「作柄はどうだ、高粱と粟はどれだけとれた?」 女房は答えない。
 「暇な時には豆腐を作って食べたか」 とうとう女房は耳をふさいでしまった。

 亭主は女房は俺より金だと、咳払いして銀貨の紐を切った。バラバラと銀貨が散らばって落ちた。

 女房はそれを見るや、亭主に抱きついて「あたしのいい人、あたし嬉しいわ、高粱は三百斤、粟は二百斤とれたわ、お豆腐が欲しければ作るわ、ロバをひいて伯母さんも呼んでくるわ、母牛はまだら色の子牛を生んだし、子豚も元気よ」と言った。   

           四老人故事集                                    1995・7・16

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