一家飽暖千家怨
冠婚葬祭の家を回っては物乞いをする乞食がいた。乞食は貰った物を食べ終わっても何も言わず動かない、その家の料理人はしょうがないので酒と肉を持たせて乞食を帰らせた。こうしてこの乞食は、それを貰うとやっと歩き出した。
それからあっちへ行ったり、こっちに行ったりして、寝られそうな所を見つける。大きな町にはたいてい乞食の溜まり場があるものだ。そこで風を避けて寝るのである。夏、暑ければ涼しい所、冬、寒むければ楼門の下などを探すのである。
この乞食は今日は飲んで食べて満足していたのだが、あちこち歩き疲れてまた腹が空いたので乞食たちが何時もいる場所に行って陣どった。そこは三方が壁で寄りかかれる場所で乞食の主とでもいう古参の乞食が陣どる所だ。
そこにこの乞食はやおら腰をおろすと、さっき貰った酒と肉をひろげ独りで飲み食い始めた、食べたり飲んだりしているうちに、「満腹、満腹。周りは壁で暖かい。今日の俺は大尽さまだ。お前らどうだ」と詩句を吟じた。
それを冠婚葬祭のいい所を回れず、そこらで残飯を貰って食べていた別な乞食が癪にさわり「馬鹿野郎、何処で飲もうが食おうが同じだ、俺たちは貰い物で食ってるんだ」と言って泥を掴み、いい気になっているこの乞食にぶつけた。ぶつけられたこの乞食は、酒をこぼし、肉を落としたがすぐ、黙れ、と笑いながらまた言った。
「お−、これを“一家飽暖千家怨”(一人の豊かさを千人が羨む)と言うのだ」と。
李占春故事選 1995・7・3