満足が臘梅に戯れる

昔、ある北の村に李という長者が住んでいた。長者の屋敷の前は河で橋があり、河は毎年冬になると凍り、人々は橋の下の氷の上を往来した。
ある日、一人の乞食が寒さに凍え歯をガタガタさせながら氷の河を渡り、橋の下で焚き火のあとの灰の中に火だねを見つけ、木を拾って燃やし、その焚き火の前に座って暖まり、思わず「満足だ、満足だ」と声を上げた。この時、李長者が屋敷から出て来て、橋の下で「満足だ、満足だ」と声がするので、何事かと行って見ると、乞食が焚き火の前にしゃがみ「満足だ、満足だ」と声を上げているのだった。長者が「お前さん、何が満足なんだね」と聞くと、乞食は「わしは三年乞食をしているが、こんなに暖まったのは初めてで満足したんだ」と言った。
「お前さんの名前は、年は幾つだね」「わしの名は常楽、年は六十五、寅年の七月十五日生れだ」長者はそれを聞き、生まれ年と月が自分と同じなのに自分は幸せに過ごしてきたが、この男は貧乏で乞食をしている、そう思って、常楽に「今日からお前さん、私の屋敷に住んだらどうかね、私がお前さんの着物や食べ物は用意してやるが、どうかね」と言うと常楽は「有難い、有難い」と喜んだ。
こいうわけで、常楽は李長者の屋敷に住むようになり、長者は常楽の名を満足と改めさせた。 李長者は番頭に満足に暖かい部屋を用意させ、着物を着替えさせ、食事を作らせた、特に女中の臘梅をつけ食事やお茶を運ばせたり、夜は明りを灯させたりした。満足は毎日、酒と料理で腹一杯、身なりも整い、体も前より丈夫になり、楽な暮らしになった。
諺に「食足りて、不善をなす」と言うが、ある日、女中の臘梅が満足の部屋の明りをつけに行くと、満足は臘梅のうぶな可愛いい手を見て心を乱し、臘梅の手を撫でてしまった、臘梅はこれを長者に話すと長者は「う−ん」と言うだけで何も言わなかった。満足は李長者が何もとがめないので、密かに喜び、翌日の晩も臘梅が明りをつけに行くと、満足はまた臘梅を抱いて唇づけをしようとした。臘梅は満足を突き放して逃げだし李長者に言いつけた。長者はしばらく考えて、筆をとり手紙をしたためた。
翌朝、李長者は満足を呼んで「この手紙を江南にいるわしの従兄弟に届けてくれ」と言い、馬一頭と銀五十両を渡した。満足は手紙にしるされた江南の小さな町に着いて探したがそんな人はいなかった。満足は持ってきた銀五十両を使い果たし、馬も売ってしまい、帰るにも金がなくなり、あせって、手紙を開けて見たが満足は字が読めないので人に読んでもらうと、その人はハハハと笑い「これは手紙じゃあない、詩だ、読んで上げよう
『満足、橋下の灰を忘れ、臘梅に戯れる
江南に我が従兄弟なし、汝、江南より帰ることなし
全てを使い果せし、汝に残されしは飢え』
満足は聞き終わると大声で泣いたが悔やんでも間に合わない。満足はまた乞食になった。
中国民間文学集成遼寧巻 姜淑珍故事選