宝瓢箪

 都の東にある山の麓の村に趙という家があった。母と子の二人暮らしで、息子の名は趙祥、十歳過ぎたばかりである。この子は小さいが、てきぱきして気立てもいい。暮らしは苦しかったが趙祥は何時も糠や、野草を食べ、母には野草を混ぜないご飯を食べさせ、自分は一口も食べなかった。そんな趙祥を近所の大人たちは孝行者だとほめていた。

 ある日、中庭で母子が仕事をしていると、突然、空を飛んでいた大きな雁が中庭に落ちてきた、趙祥は雁をすぐ捕まえ大声で言った「母さん、この雁をつぶして、母さんに食べさせてあげる、きっと体にいいよ」 「息子や、お前の孝行な気持ちはわかるけど、雁を殺さないでおくれ、見てごらん、脚に傷をうけて可哀相だよ、雁だって命があるのだから殺してはいけない」すると雁は脚から一滴一滴と血を流し、目からポタポタと涙を落とした。
 母親は戸棚から布を出して、傷ついた雁の脚をそっと包んでやり、趙祥は雁を中庭から空へ放してやった、だが雁は傷が深いのか高く飛べない、趙祥は雁を家の中にいれ、毎日、心をこめて養生させた。

 何日か過ぎ、村に老道士が来た。母親は老道士に「先日、わたしの家の庭に傷ついた一羽の大きな雁が落ちてきましたが、どうしたら雁の傷を治してやれるでしょうか」と尋ねた、老道士はしばらく考え「毎日、瓜の種を食べさせれば、傷は早く治るだろう」と言った。
 そこで母親は毎日毎日、雁に瓜の種を食べさせた、家に種がなくなると近所の家から借りた、趙祥も野草を掘ってそれを売り、瓜の種を買って雁に食べさせた。こうしているうちに、だんだん雁の脚の傷はよくなり、家の中や外で跳ねたり飛んだりするようになり、趙祥と母親は喜んだ。趙祥は雁に小屋を作って住まわせ、寒くなると雁を抱えて家の中に入れ一緒に寝起きした。こうして雁の脚はすっかりよくなった。

 やがて、 今日、明日と少しづつ知らず知らずに河の氷が割れ、山の雪が解けはじめ、草が芽生え庭の木も緑になり、南に渡っていた雁たちも帰って来た。
 ある日、母親は趙祥に「息子や、うちの雁の傷も治ったから、空に放して仲間の群れに帰してやろう」と言った、趙祥は「そうですね」と言って、雁を抱え「さあ、家族の所へお帰り」と放してやると、空に向かって飛び、屋根の上を三回まわり、三声鳴き叫んで飛び去った。

 月日は水のように流れ、またたくまに一年過ぎた。春の日の正午、一羽の雁が趙祥の家の庭に舞いおりた、母親が部屋から出て見ると。あっ、あの傷ついた雁が帰って来たのだ、母親は思わず嬉しくて走りだし雁を胸に抱き、雁の羽をさすり脚の傷を見、たまりかねて「雁やお前がいってから、わたしたちはお前が恋しくてたまらなかったよ、脚は痛くないかい」と言った、雁はまるで母親の言葉がわかるように頭をふった。母親がまた「遠くから飛んできて、きっとお腹が空いただろう、おいで、粟をあげるから」と言うと、雁は頭をふり力をこめ、嘴から大きな瓢箪の種を出して母親の手のひらにのせた。それから雁は空高く舞い母親に向かい三度鳴いて飛び去った。

 雁のくれた瓢箪の種は大きくて、つやつやしていた、これはいい種だと母親は畑に植えると、いく日もせず、瓢箪は芽を出し茎を伸ばした、茎は太く、葉は大きくて何かよくなりそうである、母親は「大きな瓢箪がなったら、水入れや卵入れや何かにすればきっといい」と言って、毎日、水をやり、肥料をやった、けれども茎についたのは小さな瓢箪であった、秋になってもこの瓢箪はまだ青いままであった、採ればもう大きくならない、採らなければ霜に打たれる、どうしたらいいだろうと、母と趙祥は悩んだ。

 ある日、趙祥が山で野草を掘っていると、「ああ、ああ」と人が叫んでいるのが聞こえてきた、急いで行ってみると白髪の老人が倒れている、趙祥は老人を助け起こして「どうしたのですか、わたしが背負って家まで送りましょう」「これはいい人に出会った、わたしを山の下まで背負ってくれ」趙祥は一歩一歩どうにか老人を背負って山を下りた、老人は笑いながら「ただで背負ってもらっては悪い、お前にいいことを教えよう、お前の家のあの瓢箪は“一年青、二年成、三年宝瓢箪”と言う宝物で宝の山を開ける鍵だ」 「瓢箪が宝の山の鍵?」 「そうだ、あの山に鳳凰が下りた時、山を開き宝を取ればよい、あの小さな瓢箪を持って山に向かい先ず左へ三回、つぎに右に三回まわしながら“一年青、二年成、三年宝瓢箪霊”と言えばあの山が自然に開く、そこには数えきれない金銀財宝があるから、欲しい物を取れ、しかし決して欲ばるなよ、それを忘れるな」そう言うと白髪の老人は見えなくなった。

 夜、趙祥は家に帰り山で会った白髪の老人のことを詳しく母に話した。母親は「息子や、山が開いても欲張ってはいけないことを忘れるんじゃないよ」 「母さん、忘れないよ」
 光陰の矢のように日月はたち、またたく間に三年過ぎた。趙祥と母は瓢箪を採って、箱に入れ鍵をかけた。ある日、趙祥はまた山で野草を掘っていた、掘りながら頭を上げると美しい一羽の鳳凰が山の頂上にいた。趙祥は白髪の老人の話を思い出し、急いで野草の籠を抱えて家に帰り箱から宝瓢箪を出し、山に向かって宝瓢箪を左に三回、右に三回まわしながら「一年青、二年成、三年宝瓢箪霊」と言うと“ガ−”と音がして山が開いた、行ってみると、光り輝く数知れないほどの金銀財宝があった。趙祥は金塊を一つ取って懐に入れた、すると開いた山はゆっくりとまた閉まった。

 趙祥は家に帰り、宝瓢箪を使って山を開き金塊を一つ取ったことを母に話した、「そうだ、知足長楽だよ」趙祥は金塊を、お金に換え、家と土地を買い、賢い妻を娶った。
 それから趙祥はこの山を開く“鍵”……宝瓢箪で、困った時に山に行き金銀を取った、ただ金銀は毎回一つだけで決して欲張ることはなかった。  

         姜淑珍故事選                                        1995・5・6

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