猫を呼ぶ声
一人の若い鍛治屋がいた。真面目な働き者で、朝早くから夜遅くまで何年も鉄を打って金がたまり“俺はこうして一生、鉄を打っているだけては生きがいがない、この金を持って外の土地で別の仕事をしたいものだ”と考え、金を持って旅に出た。 若者はあてもなく気のむくままに行き、ある村に来た。
すると村の入口の井戸で一人の娘が水を汲んでいる、若者は喉が乾いていたので水を貰おうと娘に深く頭を下げ「娘さん、わたしは歩き疲れとても喉が乾きました、水を少し戴けませんか」と言った。娘は笑って「飲みたいだけ飲みなさい、水はいくらでもあるわ」若者は娘の桶から水を飲んだ、若者が飲みおわって立ち上がると娘は桶を担いで行ってしまった。
若者は水を飲んで腰が軽くなったように思い腰に触ってみると“あれ、これはおかしい、水を飲んだら金がなくなった、水を飲んだ時に桶の中に落としたのだ、ほかに落とす所はない”と考えた。
娘は水桶を担いで、軽やかに村の中に入って行った、娘が曲がりくねった道から家に入った時、若者は娘の家の門に追いつくと、娘はまだ庭に立っていた。若者は「私はお金を水桶に落としていませんでしたか」と聞いた、娘が「落としたのかどうか来て見たら」と言うので、若者は遠慮ぶかく門の中に入ると娘は「あなたはいい人ね、あなたのお金はわたしが持っているわ、あなたはどこへ行くの」と言った、「わたしは身寄りのない一人者ですが鉄を打って働き、お金をためましたが鍛治屋をやめて、何か別の商売がしたいので旅に出たのです」 「それなら、ここに住んでわたしと結婚しない、どう?」若者は自分のお金を娘が持っていたことを不審に思ったが、娘は艶やかで器量もいいので、結婚しようと言うのだから結婚しようと若者は同意した。
この娘には妖術を使う伯父がいた、その伯父は姪が若者と結婚したと聞いて、両親もいないのに、結婚という大事なことを俺に話しもせず勝手に決めるのは許せない、姪の考えを改めさせねばと決心した、だがそれは外に出さず密かにやつけてやろうと、ある日、姪に「お前は独立しているのだから結婚するのもいいだろう、婿もいい人だ、明日はお前の婿をわしの家に呼んで御馳走しよう」と言った、だが娘には伯父が何をしょうとすのかかわかっていた、娘は若者に「明日、伯父があなたに御馳走すると言っているが、決して食べてはいけない、何も食べてはいけない、どんなものでも一口一滴たりとも飲み食いしてはいけない」としっかり言い聞かせた。
翌日、伯父は食卓一杯に料理を並べ、いい酒をだして若者にすすめたが、若者は少しも食べない「婿さん、どうしたのだ、遠慮しないで食べてくれ、わしの好意を受けてくれなければ、わしも気がすまない」と言った、若者は、こんなにわたしを迎えてくれているのに、一口も食べないのも悪いと無理して二本うどんを食べた。家に帰ると娘は「食べなかった?」と聞いた「いや、しかたがないから二本うどんを食べた」娘はそれを聞くと「あっ、駄目、あなたが食べたのは、うどんではなくて二匹の毒虫よ、早くしなければ」娘は縄で若者の足を縛り頭を下にして大きな梁にさかさまに吊り下げ、下に酒をなみなみと入れた瓶を置くと、若者の口から二匹の毒虫が瓶の中に落ちた。
娘は若者に「わたしたちはここにぐずぐずしていられない、どっちにしろ伯父はきっと、わたしたちをやつける方法を考えて、このままではすませないわ、早く逃げましょう」と言った、「それならどうしたらいいのだ、あんたの言う通りにする」 「いいわ、わたしがあなたに傘をあげる、これを持って逃げて。途中で決して開いてはだめよ、開らいたらおわりよ。わたしはあなたと一緒にいけないから、先に逃げて、どんなことがあっても傘を開いてはだめよ」こうして若者は傘を抱えて逃げ出した。
逃げているうちに雨が降ってくると若者は娘の言葉を忘れ傘を開いてしまった、傘をを開くと娘が傘の中から落ちてきた。「あっ、開けないでと言っていたのに」 「雨が降ったので忘れてしまった」 「こうなったらしょうがない、わたしたちは帰りましょう、伯父は必ず捜しにくるわ」娘が傘の中で見つからなかったが、傘から落ちると見つかり、伯父はあとから追いかけてきた。娘は伯父が追いかけて来るのを見ると、一羽の雀に変わり「あなたは後から来て、わたしは先に行く」と飛んで行った、それを見ると伯父は鷹になって追いかけた。
若者が家に着くと、娘は伯父からのがれて家に来ていた、娘は若者に「伯父が迫って来る」と言った、「じゃあ、どうしてごまかそう」 「こうしましょう、わたしが箱にはいるからか鍵をかけて、そしてあなたは部屋にいればいいわ」こうして娘は体を揺すると、一輪の花に変わった、若者は花を箱に入れて鍵をかけた。伯父が来てみると姪がいない、花に変わり箱に隠れたのだろうと考えたが、鍵がかかている。どうすれば箱にはいれるか、伯父は鼠になってカリカリと箱をかじり始めた、娘は箱の中にはいられれば助からないと心配になってきて、もし頭をだしたら噛みついてやろうと箱の中で猫に変わった。鼠はカリカリとかじり穴をあけた、鼠がそこから頭をだしたとたんに猫は鼠に噛みついた。チュチュと鼠は叫んで猫に食べられてしまった。
猫と鼠が箱の中でバタバタしているので、若者は箱を開けて花を探すと花はなく、一匹の猫が「ミャアミャア」と鳴いているだけであった。娘は伯父を食べたのでもとの姿に戻ることはできない。それから人は猫を「ホア、ホア、ホア(花、花、花)」と呼ぶようになったのである。
中国民間文学集成遼寧巻無順市巻上 1995・4・26