鬼谷子(粟の申し子)

 むかし、東の家と西の家があった。東の家には男の子、西の家には女の子がいた。小さい時から二人で遊び、学校に行く歳になると一緒に学校に行くようになった、二人は本当の仲良しだっだ。

 やがて、二人は二十を過ぎ女の子は嫁入り前の娘に、男の子は所帯を持つ若者の歳になり、二人の結婚が決まった。
 ところが、若者は結婚の前に突然急病で死んでしまった。娘は若者が恋しくてたまらず、魅いられたように一日中墓の上に伏して泣きつづけた。そして涙が塔婆の上に落ちると、そこに粟が芽生え大きく育ち、穂も長くついた、娘は毎日、粟に水をやり、秋には実った粟を刈り、穂を叩いて実を落とし臼ですって粟粒にして炊いて食べた、すると娘はすぐ妊娠した。

 両親は娘が家を離れることもなく、真面目なのに、これはどういうことだと「娘や、お前はどうして妊娠したのだ、相手は誰だ」と聞いた、娘は「粟を炊いて食べたらすぐお腹が大きくなった」と答えた、両親はそれなら仕方がないと納得した。九ヵ月で男の子が生まれ、名前を“鬼谷子”(粟の申し子)とつけた。

 この子は非常に聡明で、五、六歳で本を読み、字を書き、もの覚えもよく、何を学んでもすぐ理解した。人々はみんなこの子はきっと出世すると言い、母親もこの子に役に立つことを学ばせ、外のことは学ばせまいと思った。近所に老漢方医がいたので鬼谷子をこの漢方医の弟子にし医学と薬について学ばせた。鬼谷子はこの老医の指導で医学を学び、自分で病人の治療をするようになった、多くの人の病気を治しても金をとらず、どんな病気も優れた技能で治した。

 この時代の皇帝が足の病を患っていた、今で言えば足の腫瘍である、十七、八人いた皇帝の侍医がどう治療しても治らない。鬼谷子がよく病を治すということは都にも知られていたので、皇帝は大臣に「鬼谷子を迎えに行って来い」と命じた。二人の役人が鎖を持って鬼谷子の所へ行き、役人は鬼谷子の家の中に入り「お前は鬼谷子か」と聞き「はい、私が鬼谷子です」と答えると二人の役人は「来い」と言って、鎖を鬼谷子の首に“パッ”とかけ、そのまま皇帝の前に連れて行った。

 皇帝は足が痛いので数人のお付きに抱えられて出てきた。「汝が鬼谷子か」 「はい、鬼谷子でございます」 「予は長い間、足から膿が外に滲みでて痛い、早く治してくれ」と皇帝は言った、だが皇帝は鬼谷子が少し不機嫌なので、みると鬼谷子の首に鉄の鎖がかかっている「どうして鎖をかけているのだ」 「誰がかけたのだ」 「馬鹿者、予は迎えに行けと言ったのだ、どうして鎖をかけて連れて来たのだ、早くはずせ」と鎖をはずさせ皇帝は鬼谷子に席を賜った。両側にいた文武の大臣は声もださず、鬼谷子に鎖をかけた役人はもそばでぼんやり立っていた。

 鬼谷子は皇帝の服を脱がし皇帝の足を撫でると、畏まって「皇帝陛下、足を切らねばなりません」と言った。「切らないで治すことはできないのか、足を一本切られてどうして予が皇帝でいられるか」と皇帝が言うと、鬼谷子は「もし切らなければ命にかかわります、切ったあとで、別な足をつなげばもとのように歩けます」と答えた。

 皇帝は「よし」と言い、鬼谷子はすぐ皇帝の足を切った、皇帝が「予にどんな足をつなぐのだ」と言うと、鬼谷子が鎖をかけた役人を指して「皇帝、あの役人の足を切ってつなげばすぐよくなります」と言うと皇帝は「よし」と言った、皇帝はその役人をおさえさせ足を切り、すぐ皇帝につなげ薬をつけると、すぐ効き目がでて歩けるようになり少しも痛くない、皇帝は大喜びしたが、足を切られた役人は“アオアオ”と豚が去勢さるような悲しげな叫び声を上げた。

 皇帝は「あれは予に長年仕えてくれた者だから、なんとかしてやりたい」 「いいでしょう、彼の足もつなぎましょう、大きな犬の足をつないでやります」と、役人の足に犬の足をつげてやった。やはりつないだ後も痛くなかったが、ただ片方が長く片方が短く一本足で歩いた、どうしたって犬の足だから仕方がない。

 するとこんどは犬が“アオアオ”と悲しげに吠えた、この犬は皇帝が飼っていた御犬で、死なせるわけにはいかない、鬼谷子は「いいことがある、泥を取って来てくれ」と言い、その泥を捏ねて犬の足をつくり、犬につなげ薬をつけると、犬は吠えなくなり走るようになった。鬼谷子は犬に「お前はこれから小便をする時、この足を上げろ、泥の足にかけると足が壊れてしまう」と教えた。

 それで犬は小便をするとき片足を今でも上げるのだ、嘘だと思うなら犬が小便をする時、見てごらん。                

          中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上                       1995・4・18

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