夢を見る人

 人が夢を見ることはよく知られている。しかし、眠ったり、居眠りしたりしなければ夢は見ない。真昼間に大きな目を開けたまま夢を見ることはない。
 ある大きな商店に雇われた年老いた夜警がいた。昼間は何もせず、夜、商店の正門に詰め、真夜中になると門内の建物を見回り、出入りする人があれば用事を尋ねるのが、夜警の仕事である。この老夜警は非常に忠実で、夜間に起こったことは何でもすべて主人にありのままに話していた。

 ある日、主人がこの老夜警に「明日わしは外国へ商品の買い付けに飛行機で行く」と言った、老夜警は「わかりました、明日の昼、わたしが航空券を買いに行ってきます」と答えた。ところが、夜になって老夜警は飛行機が墜落した夢を見た、主人が乗った飛行機がヒマラヤ山を越える付近で落ちた夢だ。老夜警は、朝早く“トットット”と主人の所に行き「ご主人、行かないほうがいいです、行くのは危険です、わたしは昨夜、夢を見ました」 「え、どんな夢を見たのだ」 「わたしが見た夢は、ご主人が乗った飛行機が墜落した夢です」これを聞いた主人は気のいい老夜警が心配して、行くなと言うのだからやめようと言った。

 ちょうどその時、雇人が飛行機が墜落したニュ−スを報じた新聞を持ってきた。主人は驚き「もしあんたが言わなかったらわしはこの飛行機に乗って死んでいたかもしれない」と老夜警に感激した。この老夜警も嬉しくなり、見せびらかすように得意になって頭をふり「もし俺が言わなければ、飛行機は墜落してご主人は死んでいたんだから俺はご主人の命の恩人になったんだ」と言った。雇人や下男、下女、上から下まで「ご主人はあんたのお陰で命びろいしたのだ」と言ってひとりとしてこの老夜警をほめない者はなく老夜警も嬉しくてたまらなかった。

 この後で主人は老夜警、商店の使用人、家の中の男や女、若い者から年寄りまでを招いてみんなで喜ぶ宴会を開いた。人々は盃を上げ、互いにまあ一杯、まあ一杯と酒を酌みかわし、誰もがこの老夜警の話をした。酒が回り、料理がでて宴たけなわになると、主人が立ってみんなに「わたしの命はうちの夜警の夢のお陰です、彼の夢がわたしの命をひきとめてくれたのです。僅かながら賞金を贈ります」と言って、何百円かの金を出し(老夜警に言わせれば、何千円、何万円にも相当するのに)この金を老夜警の手に渡し、なんと、「これは退職金だ、あんたはいらない」と言ったのだ。
 老夜警の顔がサッと赤くなり、血がのぼって「何だって、どうして俺がクビになるのだ、俺はあんたの命の恩人だぞ」と言い、そこにいた人々も不公平だと怒った。主人は 「夢を見る夜警は、いらないのだ」と言う、それでも人々はどうして駄目なのか不思議がった、「夜警は夜中の仕事なのに、どうして眠るのだ、あんたは眠らないで夢が見られるのか、夢を見たのは眠ったからだ、だからクビだ」と言った。

          中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻下                       1995・3・28

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