35 昔話と俳優の一人語り
俳優の一人語りを聞いて感じたことがある。
まずその表情である。一人語りの俳優は語りの中の登場者のそれぞれの顔で語るから実に豊かに変化する。表情豊に語れば語るほどその演技は光る。
だが、昔話の語り手は語りの中の登場者を語り手の自然体で語る。爺婆はあるがままの顔で孫に語るのである。
つぎはそのまなざしである。一人語りの俳優のまなざしは常に語る対象に向いている。「青い空」と言う時、そのまなざしは俳優が想像する青空に向いていて聞き手に注がれているのではない。この時、聞き手は俳優の想像する(創造する)「青い空」を見ているが語りの当事者にはなっていない。
だが、昔話の語り手、聞き手は昔話の当事者なのだ。だから互いのまなざし互いの目に注がれていて語られる対象に向いているのではない、昔話の語りの中にいるのだ。
俳優の一人語りは舞台の上の長い科白または独白の演技であり、その聞き手は演劇の舞台を見る観客である。
だが、爺婆の語りのまなざしは常に孫の目に注がれていて昔話の中にある。(1994年12月)