32  文字のない語り      

 大昔、“語り”があった、“文字”がなかったからである。だが、すでに口承の昔話は文字によって管理され、文字なしに昔話を語ることは結果的にみて不可能である。そして人が自然と語り合うような文字のない昔話の語りはなくなった。      

 それに替わって、ボランティア、声優、俳優などによって図書館、公民館、家庭文庫、保育園、学校、小劇場でのスト−リ−テリング、口演童話、一人語り、朗読など文字のある語りが盛んである。      

 人は文字のある語りを盛んにした。しかし、文字のない語りは失った。文字に閉じ込められた昔話を文字以前で語り聞きたいと願うのは所詮“螳螂の斧”に過ぎぬのであろうか。(1994年2月)                                       

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