31  自分の過去と重ねて語る      

 語り手が昔話を意識、無意識的に自分の過去と重ね合わせて語るのは、その昔話を幼い時に聞き、自分自身の生い立ちと深くかかわるからである。      

 だが、祖父母が語り、孫が聞くというような私生活での昔話の語りはもう半世紀以上も前から少なくなっている。それに替わって、ボランティア、声優、俳優などによって図書館、公民館、家庭文庫、小劇場での公開のスト−リ−テリング、口演童話、一人語り、朗読などが盛んである。      

 そのなかで自分の過去と重ね合わせて何かを語る語り手に出会うことはよほどの偶然と幸運に恵ぐまれなければできない。      

 幼い時に昔話を聞いたこともなく、変哲もない人生を七十年近くも続けた私が、自分の過去と重ね合わせて語る語りを聞きたいと願うのは身勝手だと思うし、ましてや、昔話を語るのはおこがましい限りだと思っている。      

 どんなことでも自分の過去と重ね合わせて聞いたり、語ったりするのは覚悟のいることである。(1993年10月)

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