賢い女房
少しばかりぼんやりしてはいるが心の真っ直ぐな男がいた。
兄たちは市場に店を出しているのに、父親はこの息子を市場にはやらなかった。男は兄が羨ましくなって「兄貴はみんな市場に店をだしてるから、俺も一度、市場に行きたい」と父親に言うと、父親は「お前が行きたいなら、あした市場へ行って牛を売って幾らかの金にしておいで」言った。
男は準備をととのえて市場に行き牛を売ってきた。「売れたか」 「売れたよ」 「幾らで売った」 「父さんの言った値で売ったよ」 「金はどうした」 「掛け売りで、金はくれなかった」 「牛を掛けで売る奴があるか」 「客はどこの村の者だ」 「知らない」 父親は怒りだして息子に殴りかかった。驚いた息子は自分の部屋に逃げ込むと、父親は息子の女房がいる部屋まで追いかけることはしなかった。
女房が「お前さん、その客の住まいを聞いたのかい」 「聞いたよ」 「何て言ったんだい」 「客は『俺の内ははんぶん空にかかっていて、名前は西北の風、門のわきに関節の木があって、門に米つき虫がいる』と言ったんだ」 すると女房は「ははあ−わかった、空にかかっているは、ちかじか祝ごとがあるんだ、西北の風と言うのは“冷”と言う名前のこと、門のわきの関節の木は竹林のこと、門の中の米つき虫はひき臼があるということよ。お前さん祝ごとのあるこういう家に行けばそこよ」
女房に教えられた男は、門のわきに竹林、門の中にひき臼のある家をすぐ見つけた。見るとあの客がいる「こんにちは」 「やあ来たな」客は飯を食べながら「わしがお前さんに話したことを誰が当てたんだね」 「何の話です」「牛を掛けで買った時、話したろう」 「ああ、あれですか、わたしは家に帰り親爺に殴られ、女房の部屋に逃げ込んだら、女房がどうしたのって聞くから話すと女房は、その人は近く祝ごとがあり、名前は“冷”門のわきに竹林、門の中にひき臼がある家の人だというので、探してきたんです」と答えた。
この男は心のなかでこいつの女房はなかなかできていると思い、飯を食べおわると、金を出し、それから餅を包んで出し「この餅の包みは誰にもやらず、あんたの女房に渡してくれ」と言った。亭主は帰ると、金は父親に、餅の包みは女房に渡した。
女房が包みを開くと、一本の鮮やかな花と一切れの豚肉が入っていた。女房はフ−ン、わかった、これは花に間抜けな豚だとわたしら夫婦を笑っているのだと、癪にさわり、こんな悪い奴はやつけてやれと考え、亭主に「馬を用意して、わたしの実家に行くわよ」と言った。
亭主は何のことかわからず女房を馬に乗せ、「フ−フ−」言いながら馬をひいて行った。しばらく行くと湖の傍らの道であの男が馬糞刺しで馬糞を拾い投げて通らせない 「あんた何するの」 「俺のかみさんが野菜を運んでいてかんざしを落としたので探しているんだ」と男が言った。
女房はこの男を見てすぐ嫌な奴だ思い、心の中でこの男はわたしたち夫婦の仲を壊そうとしたのだから、一言、文句を言ってやろうと「花に間抜けな豚だってわたしたち夫婦はとも白髪よ、だけどあんたのかみさんのかんざしは見つからないわよ、かみさんは間男にやっちゃたのよ、あんた知らないの」と言い放ち、女房は亭主に「あたしたちは帰ろう」と言った。
四老人故事集 1994・12・22