虎の息子
昔、ある爺さんが朝早く起きて薪を取りに山へ行った。橋を渡ると一頭の虎がのろのろと這うように爺さんの前にやって来ると、跳びかかる様子もなく口を開け爪で自分の喉をひっかいている、不思議に思った爺さんは「動くんじゃないよ、わしがお前の口の中を見てやるから」と言うと、虎は口をあけた、爺さんが見ると口の奥にかんざしが刺さっていて喉が腫れている。爺さんは「かんざしが喉に刺さって腫れているんだ、これは大変だ、わしの家においで、わしがなんとか取ってやろう」と言った。
家につくと、爺さんは虎に口をあけさせ薪でつっかえ棒をすると釘ぬきでかんざしを取ってやり「お前、おなかが空いただろう、早く山へ獲物を取りに行きな」と言った。
ところが、虎は礼を言うように頭をさげて動かない。爺さんは「そうか行きたくないのか、それならここにいな、お前が食べる物はわしがなんとかしてやる、元気になってから行きな」と言った。虎は爺さんと同じ物を食べて元気になると山から兎や狼を捕って来るようになり、山へ帰ろうとしない。爺さんも虎の捕ってきた獲物を煮ると肉も汁もおいしいので 「お前、山へ帰りたくないのかそれならわしの息子なってくれ」と言うと虎は頭を下げた。
ある日一人の若者が道に迷い爺さんの家に来た「どうしたのだ」と爺さんが聞くと若者は「わたしは山東の莱陽の者です、道に迷い山からでられなくなりました」と言った「わしが道を教えてあげよう」と爺さんが言うと若者は「わたしはここが気に入りました、ここにいてはいけませんか、わたしをあなたの息子にしてください」 「わしにはお前さんより大きな虎の息子がいるからお前さんは虎の弟になるがそれでもいいか」 「いいです」
こうして爺さんは虎と人を自分の息子にした。爺さんは虎の息子に「お前の弟は頭、顔、鼻、目、手、足とも人間だ、もう二十歳になるのに山の中にいるのでまだ女房がいない、弟に女房を探して来てくれ」と言うと虎は承知して探しに行った。
話は変わるが、これより前に北山のある家で女の赤ん坊がさらわれた。人さらいは山の中に赤ん坊を黄色のどんすの風呂敷に包んで隠して逃げたが捕まって殺されてしまい、赤ん坊の行方は判らなくなった。ところが偶然一頭の虎がこの風呂敷を見つけひろげてみると毛がなく骨も軟らかい赤ん坊だったので、巣へくわえて行った。虎には二頭の子虎がいたが、泣いている赤ん坊を見ると赤ん坊の涙をなめたり鼻水をなめたりして可愛がった。母虎は赤ん坊を抱いて乳をやった。
こうして赤ん坊は七八才の女の子になり跳んだりはねたり歌ったりした。母虎はこの子が可愛くてしょうがない、やがて女の子は十六七の娘になり、何時までも虎と一緒に暮らすこともできず一人で小さな小屋に住むようになった。母虎は人を襲いその着物を取ってはこの娘に着せ面倒をみていた。
実は爺さんの虎の息子は山奥にこの娘がいることを知っていたのである、そこで母虎にわけを話して、娘を弟の若者の嫁にしてくれと言った、母虎と子虎は承知せず、揃って爺さんの所に押しかけた。すると若者は腰掛けをだして娘を座らせ、爺さんは娘にお茶をだした。母虎は自分の娘を大事にしてくれるのをみて心を動かした。爺さんは若者をさして「これはわしの息子だがまだ嫁さんがない、あんたの娘と結婚させてくれないか、どうだね」と言うと母虎はうなずいた。「よかったよかった、これでわしらは親戚どうしだ、これから長く往き来しょう」と爺さんが言うと母虎も喜んだ。虎たちは爺さんが出したいろいろな食べ物を食べると帰って行った。
やがて爺さんの息子の嫁になった娘は子供を生んだ。爺さんは虎の息子に「この子のことを母虎の所へお前さんの甥ができたと知らせたくれ」言った、虎の息子は喜んで高く飛び上がって行き母虎に「俺たちに甥が生まれた」と伝えた。
それを聞いた母虎はノロ、兎、野鹿などの贈物を持ってやって来た。産後はご飯が美味しくないものだがこれは御馳走だ。みんなでお祝いの酒を飲み、人は人の言葉で、虎は虎の言葉で話しあった。祝いに集まった二十四頭の虎はみんな親戚である、三つの食卓に何皿もの肉を煮てだし、食べたり飲んだりした、爺さんが「お前さんの名は」と聞くと、「張虎」 「お前さんは」 「王虎」 「お前さんは」 「猛虎」 「お前さんは」と聞くと天を向いて、「天虎」と言った。「お前さんは」と聞くと「地虎」と答え「地の虎だって」と爺さんが聞き返すと「そうだ、俺は鼠のように走りまわるのだ」と地虎は答えた。
さて、爺さんはみんなが酒を飲み終わると、赤ん坊に名前をつけてくれと言った、虎たちは相談して「群虎喜子」と名をつけた。やがてみんなは別れを告げて帰った。
それからも虎たちは朝晩やって来て爺さんに食べる物を持って来た。爺さんはずっと虎が持って来た物を食べていた。やがて虎の息子が死んだ。
爺さんと若い夫婦はとても悲しみ、家の前に穴を堀り、虎の息子を埋めて大きな墓を作った。「虎の息子や息子、お前はわしに食べ物を持って来てくれた、これからもわしに食べ物を作っておくれ」と言って墓の上に人参を植えた。
一年たつと大根のような大きな人参ができた。それを抜いて売ると、すぐまた人参が生えた。それから爺さんが死に息子は墓を堀り、爺さんと虎を一緒に葬った。するとまた墓に人参が前よりも沢山生えた。
それからまた母虎が死んで、夫婦はまたその墓に母虎を埋めると墓の上に人参がどんどん増え、この一家は大きな人参作りの一家になって栄えた。
四老人故事集 1994・11・30