肝を枝にかける

 河岸の大きな桃の木に登って一匹の猿が桃を食べていた、赤くなった桃が六つ八つ地面に落ちている。しばらくして猿は桃を食べ飽きると木から下りて、涼しい土手を探し昼寝をはじめた。

 河岸の南にいた狼が昼寝しているこの猿を見つけ、いい獲物だと喜び“あいつを食ってやろう”と様子を見ながらそっと近づいて猛然と飛びかかった、ところが“ドボン”と河に落ちたのは勢いあまった狼だった。狼はガブガブ水を飲み、苦しくなり命がけで「助けてくれ、助けてくれ」と叫んだ。
 狼の叫び声で猿は目を覚まし「あれ、狼の兄貴じゃあないか」 「俺が誰でもいいじゃないか、早く助けてくれ」 「兄貴はどうして河に飛び込んだんだ」 「だまれ、犬がお前を狙っていたから、俺は犬に飛びかかってお前を助け、河に落ちたんだ」と言った。
 猿は“俺を助けようとして河に落ちたなら、早く助けてやらなければ”と考え、岸辺に行ってしっぽを伸ばし狼に掴まらせて「ヤア−」と狼を岸に引き上げた。

 すると狼は掴んだ猿のしっぽを放さず、口を開け荒く息をついていたが、落ち着いてくると「猿め、お前は俺に食われろ、お前を食べたいのは犬ではない、この俺だ、早くお前の肝をだして食べさせろ」と言った、猿はこれを聞くと「俺の肝はいま腹の中にないんだ、さっき木に上で桃を食べ、汗で濡れたから木の枝にかけて干してあるんだ、兄貴が食べたいなら……取ってきてやるよ」と嘘をついた。
 狼は「早く取って来い」と手を弛めた。猿は“スルスルッ”と木に登ってしまった。もう恐ろしくない…狼は木に登れないのだ。

 狼は木の下で「早く下りて来い、俺は腹がペコペコで早くお前の肝が食べたい」猿は歯をむきだして桃を食べていたが、しばらくして「狼め、貴様はなんて酷いやつだ、俺がお前を助けてやったのに、お前は俺を食べようと言うのか、狼の残忍さはどうにもならぬとはよく言ったものだ。俺の肝を木になぞかけるものか」と狼に向かって言った。

         四老人故事集                                       1994・11・11

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