贋薬の師匠と弟子

 昔、ある男が贋薬を売って暮らす医者に弟子入りして三年たった。
 ある日、師匠の医者が「わしは今日用事があるので、お前一人で村へ薬を売りに行ってくれ、三年もわしについて修業したのだ、お前の腕で売って来い」と言った。男は喜んで薬箱を担ぎ「行って参ります」といそいそと村へ薬売りに出かけた。
 男が薬箱の鈴を揺らしながら小さな村に入って行くと、遠くから若い女房がなよなよとした姿で男を招きながら近づいて来る。男はお客が来たと急いで薬箱を下ろして若い女房を迎えて「若奥さん、何の病気ですか」と聞いた、若い女房は近づいて来ると、下を向いて顔を赤らめ、羞かしそうに小さな声で「薬屋さん、わたし結婚して一年も過ぎたのにまだ子供ができなの」と言うと、男は口をちょっとほころばして「若奥さん、それは三十文で治ります、わたしの薬を毎日一粒、三日で三粒飲めばすぐ子供ができます」と言い、若い女房から三十文貰うと薬箱を開け抽き出しの丸薬を三粒包んで出した。そして男はまた薬箱を担ぎ、鈴を鳴らしながら歩きだした。

 若い女房が薬を持って家に帰るとすぐ、亭主が畑から戻って来た、女房は嬉しそうに亭主を迎え薬屋のことを話した。それを聞くと亭主は「三十文の薬でお前さんの体が治り、俺に子供ができる、こりゃ高くない」と言うと女房の顔を見て笑い、すぐ薬売りを追いかけた。
 亭主は走りながら遠くに見える薬売りを呼んだ、薬売りは後ろから人が呼んでいるので、これは俺の薬を買いに来たのかと、足をとめて薬箱を下ろして待っていると、亭主は薬売りの側に来て荒い息を吐きながら、男の手をとり「薬屋さん、大変だ、俺の女房があんたの薬を飲んで気を失った、命が危ない、すぐ来て診てくれ」と言った、薬売りはみんなまで聞かず驚ろいて亭主に握られた手をほどき、亭主に向かい「ま、ま、まさか、わたしのあの丸薬は胡麻油と芋の粉を捏ねて作ったのだから、一粒どころか百粒飲んだって、死にっこない」と吃りながら説明した。

 亭主は薬売りの本当の話を聞くと、男に怒りをぶつけ「よし、つまりお前は贋薬を売って騙したのだな、早く俺に金を返せ、返さないなら訴えるぞ」こんなわけで薬売りは金を返すはめになってしまった。
 贋薬売りの男は一日歩いても一文にもならないし、売る気もなくなり頭を下げて薬箱を担ぎ師匠の家にトボトボと帰って行った。師匠は弟子が村で薬を売って帰って来たので喜んで「今日の商売はどうだ」と聞くと、男はフ−と溜め息をついて、ことの一部始終を師匠に話した。
 師匠はそれを聞くや、いきなり“ガンガン”と弟子の横っ面を殴って「お前は二つも間違った馬鹿なことをした」と言った。
 男は殴られて痛いほっぺたを撫でながら、「師匠、わたしのした間違った二つの馬鹿なことってなんです」と真剣になって聞くと、親方は「一つは客に本当の薬の中味を喋ちまったこと。二つ目は女に薬を飲んだことを亭主親兄弟に話さず、従姉妹親戚みんなにも黙っていて初めて効き目があり、それを守らず人に話せばこの薬の効き目が消えると言うこと話さなかったことだ」と言った。

 男はそれを聞いて初めて夢から覚めたように「フウ−」と声をだして座り、師匠に向かって、頭を地につけ「師匠、ああ師匠、わたしは師匠について三年修業しましたが、今日やっと師匠がわたしに教えてくれた二つの言葉がわかりました」と言い終わると、立ち上がって、師匠に別れを告げ、師匠の専門のあの薬を天秤棒に括り付けて担ぎ、自分の家に帰り一人立ちの医者としてあの贋の薬を売ることにした。

           宋宗科故事集                                    1994・10・8

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