
閻魔大王とペテン師
閻魔庁にどっかり構えた閻魔大王は外で死者たちが泣き叫んでいるので「牛頭、外で泣き叫んでいる死人どもを閻魔庁に連れて来い」と怒鳴った。牛頭が急いで泣き叫んでいる死者たちを閻魔庁に引き連れて来ると、閻魔大王は死者たちに「お前たちは何が口惜しくて泣き騒いでいるのだ、早々に申せ」と言った。
死者たちは一斉にひざまずき「閻魔大王さま、手前どもは娑婆でペテン師に騙され、苦しめられたのが口惜しくて泣いているのでございます」と答えた。それを聞くと閻魔大王は手にした笏をパ−ンと叩き「霊界を恐れぬペテン師め、牛頭、娑婆へ行ってそのペテン師をひっ捕まえて来い」と言った。
命令をうけた牛頭は急いで娑婆へ行き、ペテン師を捕まえた。
さて、牛頭に捕まったペテン師は“もしこのまま牛頭に地獄に連れて行かれれば俺は一巻のおわりだ、ここはこいつを騙して逃げだしてやらねばならぬ”と考え、探りを入れるために「牛頭将軍、あなたの二つ角は丸く曲がってまるで空の月ようで、二つの目はキラキラと星が照らすようでございますな、四角いお口は正義を語り、天に向いた鼻は公平無比を表わしておいでです」と言うと、牛頭はペテン師が言いおわらないうちに大声で「馬鹿野郎、何を言っているんだ、もう一度言ってみろ、殴り倒してやる」と怒った。
ペテン師はこれは手強い、一つが駄目ならつぎの手だと続けて「あなたは体は大きいが、馬頭とは大いに違いますな」と言うと、牛頭はペテン師が馬頭のことを言い出したので、気になり「何だと、俺と馬頭とどう違うと言うのだ」と言った。
ペテン師は目玉をクリクリさせながら「牛頭将軍、あなたは馬頭と長い間一緒に仕事をしていて、まだ判らないのですか。馬頭は食べる、飲む、遊ぶ、打つ、騙す、盗むなどなど面白いことを一人占めにしているのですよ。貴重な経本を得た三蔵法師と災難を引き起こした孫悟空のように、馬頭は面白いことは何もかも一人占めにして、つまらないことはみんなあなたに押しつけているのです」と牛頭にけしかけた。牛頭はしばらく
考えそのとうりだと気がつ き、態度をガラリと変えてペテン師に「お前さんはどうして俺の心の中がわかるのだ」と言った。
これを聞いたペテン師は牛頭が自分の大嘘にひっかかったなと、さらに大ぼらを吹いた。「牛頭将軍、わたしは天帝の宮殿、その周りの様子から天帝の心の中までみんな判っているんです、ましてあなたの気持ちはよく判りますよ」牛頭はますますペテン師に感服して「お前さん、俺と馬頭野郎とではどっちが善人でどっちが悪人で、これからの俺と奴はどうなるかな」と聞いた。ペテン師は牛頭 は俺の嘘で考えが変わったなと感づき「そりゃあ馬頭が小物ですよ、立場をひっくりかえせば、あなたの位は三級上に登ります」と言った、牛鬼はつい嬉しくなり黙っていられずペテン師に「お前さん、俺を騙すのではないだろうな」と言った。するとペテン師はもったいぶって「わたしはもともと嘘のつけない人間なのに何人かの馬鹿者に悪い噂をたてらているだけです、どうしてあなた様を騙すものですか」 と言った。牛頭はこれを真に受けて、ペテン師は善人なのに無実の罪をかけられていると思い、ペテン師が閻魔大王の懲罰を免れるようにペテン師の義父になってやった。
翌日、牛頭はペテン師を連れて閻魔庁に行き閻魔大王に会わせた。閻魔大王はペテン師を見るなり、睨みつけ指さしながら、「こらペテン師、この不埒者め、お前は娑婆で悪の限りをしたそうだな、いったいどれだけ人を騙しのだ」と怒鳴り、竹筒の中から油地獄行きの命令を記した一本の竹べらを引き抜いてかざし、大声で「鬼ども、このペテン師を油地獄に連れて行け」と言ったが竹べらはそのまま放さない。竹べらの命令を受け取れない鬼たちはただ閻魔庁の下でワイワイ声を上げるが動きださない。
ちょうどこの時、壇上の閻魔大王が突然おならを一発した、ペテン師はそれを聞くと、まるで焼き餅でも手にしたような仕草でおならを持つ恰好をして、「只今された閻魔大王さまのこのおならは真に尊いものでございます」と言うと、閻魔大王は、「きさま、ペラペラでたらめなことを言うな、屁に尊いもくそもあるか」と言った。「いいえ、いいえ、閻魔大王さま、あなたのおならは宝のおならです、匂いをかげば木犀の花の香りよりもいいし、音を聞けばまるで春雷が四方に響くようでございます、もしこのおならを瓶に入れ、娑婆に持って行き四方の海の水をまぜて掻き回せば花の露となり薬になります」閻魔大王はペテン師のこのおべっかに気をよくして何も言わなくなった。
ペテン師は閻魔大王の怒りが消えたとみて、勢いづき、「閻魔大王さまお聞きください、わたしはあなたのおならはもっと大きな力があると思います」これを聞くと閻魔大王は顔に笑みを浮かべながら、「わしのおならにまだどんな力があると言うのだ、早く申せ」と言った「あなたさまは今は閻魔大王ですが、やがて天上界の天帝になられます」とペテン師が言うと、閻魔大王は心の中で密かに“この先生は本当に偉い、わしが天帝になりたいと思っているのをどうして判ったのだろう”と考え、急いで左右の者どもを退け、ペテン師を一人だけ閻魔庁の中に残し「先生はわしが天帝になりたいのをどうして知っているのだ」と聞いた。するとペテン師は「あなたのおならには天帝の品位がありますからわたしはあなたが天帝になると思います」と言った。
ペテン師のこの一言が閻魔大王の心の奥に響き、閻魔大王は急いで壇上から下りて、自らペテン師を助け起こし「先生は天地の鬼神にも勝る、将来わしが天帝となったら、きっと先生を天上界の高官にするから、今はまずわしの側近として尽くしてくれ」と言った、これを聞いたペテン師は閻魔大王の足もとにひれ伏し、つづけて三度頭を地に叩く礼をして「閻魔大王さまのお引立て有難うございます、わたくしめはこの大恩、三世にわたり忘れません」と答えた。
これ以来、ペテン師は霊界の閻魔大王に可愛がられるようになったのである。
宋宗科故事集 1994・10・8