生き返った崔素貞

 山東の奥の王家村に王長者が住んでいた。王長者の妻陳氏は六十二歳、息子三人と娘一人を生んだ。長男の嫁は張小姐、次男の嫁は李千金、三男の嫁は十八歳で嫁いできた一番若い崔素貞だ。

 陳氏はある日の真夜中、閻魔大王に「明日の正午、お前は霊界に来い、死ぬのだ」と言われる夢を見てびっくり、一晩中泣いて眠らなかった。
 夜が明けると、三人の息子、三人の嫁、一人の娘をみんな呼んで「わたしは昨夜、夢の中で閻魔大王様に、今日の昼に寿命が終わるから、黄泉の国に来るように言われた。わたしゃ、六十二で死にたくない、息子や、お前行っておくれ」と叫んだ。
 長男は慌てて母親の前にひざまずき、「わたしはお母さんの替わりに死んで閻魔大王の所へ行く気持ちはありますが、わたしの国境警備の任務を誰も替わってくれません」
 「じゃあ、次男のお前が替わりに死んでおくれ」
 次男も慌てて母親の前にひざまずき、「わたしもお母さんの替わりに死んで閻魔大王の所へ行く気持ちはありますが、誰もこの家を離れた分家を継いでくれません」
 「じゃあ、三男のお前が替わって死んでおくれ」
 三男も慌てて母親の前にひざまずき、「わたしだってお母さんの替わりに死んで閻魔大王の所に行く気持ちはありますが、誰もわたしに替わって学問をしてくれません」と言った。
 つまりみんな母親の替わりに死にたくはないのだ。

 母親はあきらめず、娘に「息子たちは誰も替わってくれない、娘やお前替わっておくれ」
 娘も慌てて母親の前にひざまずき、「わたしはお母さんの替わりに死んで閻魔大王の所へ行く気持ちはありますが、わたしは何処かの家へ嫁に出て行くのですから」と言った。
 「それなら嫁さんたちの誰かが替わりに死んでおくれ」
 長男の嫁が慌てて姑の前にひざまずき、「わたしはお姑さんの替わりに死んで閻魔大王様の所へ行く気持ちはありますよ、けれど、お姑さんの生んだ息子さえみんな替わらないのに、ましてお金で買われた嫁は誰だって、替わりに死ぬなんて思いません」と言った。
 するとそばで驚いていた崔素貞が、「わたしがお姑さんの替わりに死んで閻魔大王様の所に行きます。老母はしおれた白菜と同じで、一度切られたら戻れません、若い嫁は南の畑の韮と同じで、一度切ってもまた生えます。この世に老いない人はありません。わたしは南の畑の韮より強いです。お針箱を置いておきます、わたしの夫に渡して下さい。わたしはお姑さんに替わって閻魔大王様に会いに行きます」と言った。

 崔素貞は急いで自分の部屋に帰り、金でふちどった箪笥を開け、嫁いで来た時の衣裳を着て、上から下まで綺麗に化粧をすると、「わたしの死鬼、わたしを連れてお行き、わたしが姑に替わって大王様に会うわよ」と言って、白綾の帯を梁にかけると、嫂たちは、「あんた早く死んで、あたしたちがこの三尺の白綾を結んであげる」と言った。崔素貞は「さあ、わたしはこの世からあの世へ行くわ、門を開けて」と言って首を吊ると、二匹の死鬼は崔素貞を担いでどんどん走り、閻魔大王の前に来た。
 閻魔は崔素貞を見るとあの泥団子のような目玉をグリグリ動かして死鬼に「わしは、お前たちに六十二歳の陳老婆を連れて来いと命じたのに、なぜ十七、八歳の若妻を連れて来たのだ」と言った。
 崔素貞は慌ててひざまずき、「閻魔大王様、お聞きください。わたしは崔氏の娘、十八歳で崔素貞と申します。わたしは、姑に替わって死に大王様に会いに参りました」 閻魔大王はこれを聞くと「ハハハ」と笑い「これは世にも珍しいことだ、いくら賢良な妻女でも姑に替わって死ぬとは驚いた、お前こそ大賢人だ、これ白面判官、生死簿を開いて、この女の寿命を調べろ」
 「はい、素貞さんは五十八歳で閻魔庁に来ることなっています、いま十八歳ですからまだあと四十年あります」 「わしはお前に二十年寿命をのばし、跡継ぎに一男一女を授けてやる、どうじゃ崔素貞!ついでにお前の姑の寿命も十年のばしてやる、七十二歳になったらわしの所へ来い、あと十年生きろ」
 すると素貞は「大王様、わたしの寿命の十年を減らし、姑の寿命をあと十年ふやし二十年にしてください」と言った。
 「お前は賢良なばかりか情も深いな、二十年のお前の寿命をそのままにして、お前の姑に二十年の寿命をやろう、八十二歳になったら、わしに会うのじゃ」崔素貞は鬼たちに連れられてまたこの世に戻ってきた。

 崔素貞が首を吊って死んだので、崔の実家では可哀相で道教の和尚を呼び、花模様のついた棺桶に納めた、そこへ崔素貞があの世から戻って来て、棺桶の中から「閻魔大王がわたしを生き返らしてくれた、わたしは死人ではない、幽霊ではない」と叫んだ、道教の和尚はびっくり仰天、「大変だ、死人が中で叫んでいる、死んでいないのだ」と叫び棺桶の蓋が開けられた。

 中から十八歳の崔素貞が這い出して来て、「わたしの寿命は五十八歳ですが、この度七十八歳の寿命になりました、お姑さんは六十二歳でなく八十二歳で閻魔大王に会うことになりました、あの世で閻魔大王様はお前の嫂はお前を死なせたから、二人の寿命を十五年ずつ減らすと、言っていました」と言った。これを聞いて二人の嫂は地面に座りこんで“ワア−ワア−”と泣き出した。    

         四老人故事集                                      1994・9・24

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