職人が巨人に遇う
1
昔、年中、山で朝から晩まで石を削っていた二人の石工がいた。その年もすでに晩秋の十月になり、木の葉は落ち、菊の花も散った。
二人の石工は冷たい饅頭をかじり、冷たい山の水を飲んで仕事していた。張二という職人が溜め息をついて「貧乏人は六月までは何とか暮らしても、冬は寒くなって暮らしにくい」と言うと、王三という職人は眉間にしわをよせて、しばらく黙っていたが、やっと仕事相手の張二を見て「おい相棒、俺は一年中ここで働いても、年中貧乏だからどこか遠くへ稼ぎに行こうと決心した」と言うと、張二もうなずいて「その通りだ、一緒に今日から行こう」と答えた。二人の職人には家もなければ土地もない、それどころか金めの物は何もない、二人は連れ立って、話しながら歩きはじめた。二人は道で二人の靴の職人に遇った。靴職人が「石工のお二人さん何処へ行くのかね」と聞くと、張二はすぐ「俺とこの王三は何処か遠くの食っていけそうな所へ稼ぎに行くのだ」と言った、これを聞くと二人の靴職人は喜んで 「俺たちも毎日、靴を作っているのに、貧乏で自分の作る靴さえ履けない、俺たちも行こう」とついてきた。
また行くと、金持ちの家の針子をしている二人の女に遇った、女が 「あなた方はそんなに急いで何処へ行くのですか」と聞くと、靴職人が「俺たちはこの石工さんと一緒に何処か遠くの食べていけそうな所へ働きに行くのだ」と言うと、二人の針子は喜んで「あたしたちも毎日人さまの着物を縫っているのに、古い着物さえ着られない、あたしたちもあなたたちについて行きます」とついてきた。また進んで、行けば行くほどに多くの職人にに出会った、大工、鍛治屋いろいろな職人がいた、少なくとも千人、石工だけでも何百人もいた。
職人たちは何処へ行くあてもないのに、意気洋々と前へ前へと進んだ。一日歩いたが一つの村、ひとりの人にも遇わない。夜になって大きな枯れ木を見つけた。石工の王三が立ち止まり「みんな、この大きな枯れ木の中で野宿しようではないか」と言うとみんなは賛成した、そこでこの大木のほこら入っていった。その大きさと言ったら、千人が中へ入っても木の中はまだ広い空きがある位だ、みんなそこに横になり、お腹はとても空いていたがグウグウと寝てしまった。
2
この職人たちが寝てしまった所から少なくとも数千里離れた所に一軒の家があり、母親が家で夕飯の支度をしていた、肉饅頭がもう少しで蒸しあがるのに枯れ草が足りないので。あわてて子供に「お前、早くそこらへ行って枯れ草を取ってきておくれ」と言った、子供は母親の話を聞くとたった数歩で数千里離れている職人たちが寝ている所に着いた。子供は「この枯れた麻はよく乾いていて燃やすのにいい」と独り言をいいながら屈んで麻の茎を折ろうとした、この声を職人たちは雷のように聞いた、驚いてみんな目を覚ましぞろぞろ麻の茎からでてきた。子供は沢山の小人が出てきて大喜び、職人たちの前にしゃがんだ。
世の中にこんな不思議なことがあろうか。職人たちは螢が飛び交うのを見た、それは一万本の蝋燭をつけても、こんな明るさはない、子供の顔は生き生きとして額にかかる黒い髮の毛はつやつやと光っている。大きな子供は優しそうだった。
職人たちは驚いて声も出ない、しかし石工の王三はみんなのために自分が今何をしなければならないかを忘れてはいなかった。王三は大きな子供の顔を見上げながら大声で「これはこれは心の優しい大きな子供さん、わたしたちは一日中何も食べていないのだが、少し食べる物をくれないか」と言うと、子供はすぐわかって「あんたたち待ってて、母ちゃんが肉饅頭を蒸す柴を取って来いと言っているから」と言って、子供は勢いよくまた沢山の太い茅をとると向きを変えて走って行った。
子供が家に着くと母親はまだ火を燃やしていた。
肉饅頭が蒸しあがった、子供は王三たちの話をして母親から一つ肉饅頭を貰い先に職人たちに持っていくと出て行った。職人たちは大喜びこんな大きな肉饅頭を見たことがない。小さな山ぐらいもあって雪のように白い、それに職人たち千人が三年半食べても食べ切れないほどだ。こんな大きな肉饅頭どうやって食べるのだ、みんなは何日も食べてやっと肉饅頭の隅に穴をあけると中の具が見えた。そうだ皮を食べなければ中の具は食べられない、みんなは俺も俺もと肉饅頭の中に飛び込んで食べ始めた、中の具はとても美味しくて新鮮だった、職人たちは本当にこんな美味しい肉饅頭を食べるのは初めてだった。
平穏な暮らしが何日も続いた。
ある日、みんなが肉饅頭の中で食べていると、突然、天が崩れ落ちるような大きな音が聞こえ、肉饅頭の下の地面が動いた、王三は何事かと急いで何人かの仲間と外に身をのり出してみると、アッ、これは大変だ、雨が一粒々々降っているのではない、何千何万と滝のように雨が天から流れ落ち、地面は大海原に変わり、肉饅頭は水の上に浮かんでいる。
水面には沢山のガラスのように光る大きな山がある、これは不思議な光景だ、よく見ると大きな山は絶えず水の中から湧き出てくる、そして水の上に浮かんで動く。大きな山がこちらに向かって流れて来るとたちまち肉饅頭にぶつかり、パッと音がしてなくなった、肉饅頭がぶつかって凹んだのではない、あの大きな山が肉饅頭に当たって壊れたのだ、王三たちの心配は喜びに変わった、これでわかった、あの大きなガラスの山は雨水の泡だったのだ。雨はだんだん小降りになり、肉饅頭は大きな河の中に押出された、大きな波、多くの渦に揺れ、みんなは頭がクラクラしたが力をあわせ一枚の葉で肉饅頭の口を塞いだ、こうして波は入って来なくなった。肉饅頭は河を経て何処へ行くのだろうか。職人たちにはわからない、慎重な王三さえ時間を計る術もなくどれだけ時間がたったのかわからない。
3
ついにある日、肉饅頭は少しも揺れず、外から音も聞こえなくなった、何処かに着いたのだろうか、職人たちは喜んであの木の葉を開けた。暖かで明るい太陽の光が中を照らした、青く光る空、銀のような一片の薄雲もみえる、しかし職人たちの心は少しもさえなかった、肉饅頭は陸に着いたのではない、やはり青々とした大海原に漂っていたのだ、大海原は青い空よりも広く、果てしない。
職人たちは何時までもこの大海原に漂っているわけはないと心配になってきた、大風や大波、暗礁に乗り上げるかも知れない。王三は心はせいたが勇気を失わず、ゆっくりと「みんな心配するな、海は大きいがきっと果てはある。あそこに波に流されている木の枝がある俺たちはあれで櫂をつくろう、千人が一つの心になれば海辺に漕いでいける」と話をするとみんなの顔に笑みが戻った。
大工たちはその木の枝を見ると、普通の木の枝より太い、職人たちは木を割ったり切ったりして沢山の櫂を作りこの櫂で水をきって肉饅頭を前へ進めた。朝焼けが赤く空を染めても、星が波に光る時も手を休めようとしなかった。
漕いで漕いで、月が輝き海が鏡のようにないだ晩、職人たちは前方に長い黒い影を見た、海岸か島か、こんな時、長い間海を漂った人はどんな気持ちなるのだろうか、職人たちは疲れきっていたが急に元気になり、猛然と漕ぎ始めた。
黒い影はだんだん近づいて大きくなった。きっとこれは海岸だ上陸できる、光っているのは海岸の白い岩だ、近づいて接岸しようとすると海岸が突然動いた、アッ、これは大きな魚だ、逃げてももう間に合わない。
大きな魚は口を開き、肉饅頭と職人を一気に丸ごと腹の中に呑み込んでしまった。それでも魚は腹を空かし、向きを変えて泳ぎ、糸を満載した汽船を呑み、また布を満載した二隻の汽船を呑み込んだ、大魚はそれでやっと腹半分になった。
魚の腹の中は真っ暗だ、この黒雲に覆われた闇夜には、何倍の明るさがいるのかわからないほどだ、互いに向かいあっても姿も見えない。張二は忘れることのない家を離れてから、初めての溜め息をついた。張二は前に行き王三の体にぶつかった。張二は口惜しそうに「相棒、俺は月の照る大海に十年漂流したほうがいい、真っ暗な魚の腹に一日いるのも嫌だ」と言った。
王三はハハハと笑いながら「お前、なんでそんなにしよげるのだ、俺たちのこの肉饅頭の中には豚の油がある、これを灯せば明るくなるじゃないか」魚の腹の中に火があるとは誰も考えつかなかったのだ、職人たちは魚の腹の中を豚の油の火を灯して明るくした、魚の腹の中は昼のように明るくなった、職人たちはまるで目を失った人が再び物が見えたように喜び、仲間をみて話したり笑ったりした。
間もなく職人たちをもっと喜ばす事があった。肉饅頭のそばに止まっていた糸と布を積んだ汽船を見つけたのだ。
長い間着ていたみんなの破れた着物は今はもっとボロボロだ、これで新しい着物がいるだけ十分に作れる、王三が頭を働かせてもこの汽船に積まれた布でどのくらい着物が作れるか分からないくらいだ、みんなはすぐ新しい着物が着られると喜び忙しく立ち働いた、そしてみんな自分たちの故郷の清らかな小川、赤い花を思い出し、そればかりか虐げられ、着るもの食べるものもなかった日々を思い出しながら、もしかするとこれから安心して暮らしていけるかも知れないと思った。
4
職人たちが魚の腹の中で忙しくしている間に、外では大きな事件が起きていた、この大きな魚が自由に泳ぎ周り海岸に着くと、一羽の鳥がこの大きな魚を見つけ、ぴったりと水面を飛び、曲がった嘴を開けするりと呑み込んでしまった、それからパタパタ羽ばたきして空に舞い上がり、また翼をひとあおぎすると、ある屋根の上に止まった。そこの美しい景色は言葉では言い尽くせない、紅の太陽が暖かく輝き、隅々まで照らしている。鳥は元気に羽をふるわせて鳴いた。
すると庭の中で刺繍していた娘が顔をあげ、鳥を見ると美しい靴を鳥めがけて投げた、鳥は羽ばたきすると、ちょうど靴の先にはいり飛び出せなくなった、娘は太った鳥をみて「早く料理して父さんに食べさせてあげよう」と考え刺繍の針と糸を片づけ、鳥を提げて家の中に入った。
さて魚の中の職人たちは新しい着物を着ると、特別晴れやかな顔をして、正月を過ごすように喜び、飛んだり跳ねたり、京劇の歌を歌ったりした。
娘は鳥の腹から大きな魚を取り出した時、笑い声を聞き、この小さな小さな魚からどうして人の声がするのだろうと、不思議に思い、そっと魚の腹を割くと、三隻の汽船とあの千人が入った肉饅頭が出てきた、職人たちは多くの奇妙な事に出遇ってきたので娘を見て恐れなかった。
王三は丁寧に娘に礼の言葉を述べ、職人たちがどうして故郷を離れたのか、それからどんな危険に遇ってきたかを話した、娘は職人たちに同情して,ずっとここに住むように言った。
職人たちは庭に走り出した、みんなはこんな綺麗な青い空、万物を照らすこんな太陽をとても見たいと思っていたのだ、小鳥の鳴く声、風にそよぐ木の葉の音を聞きたかったのだ、みんなは半日歩いてもまだ家の表門に着かず、つながる二つの大きな山に道を塞がれた。この山の色はキラキラしていていい匂いがした、すこしほじくって食べて見ると甘味のある米の味がした、これは娘が何気なく落とした二粒の米だったのだ。職人たちは半日かけてやっとこの米の山を越えた。
職人たちはまだ外の景色を見てないので出かけたが夕方になってしまった、職人たちは帰ろうと、夜中まで歩きやっと娘の所に帰った。
すると娘の父親はもう帰っていて、白い髭で笑っている、見れば優しそうな老人である。娘はもう職人たちの事を話していて、老人は職人たちと夕飯を食べようと待っていたのだ。職人たちは老人と一緒に新鮮で美味しい鳥の肉を食べた。
娘はそばに座って「父さん、頭巾が古くなったから、今日魚の腹から出た布で作ったわ、頭巾を取り替えるといいわ」と言って、あの汽船にあった布から作った綺麗な頭巾を娘は老人の古い頭巾の上においた。
この間に職人たちは夕食を食べおわった。老人は赤糸の頭巾を手に取ってながめてから頭に被り、嬉しそうに明日職人たちを連れて遊びに行こうと言った。
翌日、老人は王三と千人の職人たちを自分の肩にのせ、赤糸の頭巾を被った、老人は時間もとらず、数歩で門の外に出ると花畑に向かった、職人たちは遠くからはっきりと、梅花小曲の音楽を聞いていたが、花畑に着いてやっとそれは蜜蜂が飛んで来る音であることがわかった。
花畑の青い草、緑の葉、赤い花、細い柳には露がついて、一番小さな露も自分たちが知っている月よりも、もっと大きな円で、キラリと赤く輝いたり紫に輝いたりした。職人たちはそれを老人の肩から見下すと、まるで何千何万の美しい大きな月が色とりどりの美しい雲の中に輝いているようだった。
それから老人は職人たちを果樹園に連れて行った、職人たちはもう果物のほのかな甘い香りを感じ、香りだけでさわやかな味を感じていた。
ここでもし思いがけない事が起きなければ、老人は職人たちに無上に美味しい果物を食べさせるはずだった。ところが果樹園に着くと、一羽の褐色の鷲が飛ん来ると、老人の赤糸の頭巾が鷲には素晴らしいものに見えたのだろう、頭巾をくわえて南に飛んで行ってしまった。
老人は怒りすぐ追いかけた、職人たちは老人の肩から落ちないように急いで老人の懐に入り、そこから頭をだして外を見た。鷲はどんどん早くなり老人もどんどん早くなるが、追いつかない。老人は腰を屈め人が三日三晩かかってやっと登れるような大きな山を鷲にむけて投げた、山は鷲に当たらず、もっと大きい山の南面に落ちた。
5
すると山の南面から天地を轟かす声が響いた「誰だわしの椀に砂をいれたのは」老人はその声を聞いて、高い山を何歩かで跨いで行くと、老人より三倍も大きい人が座って昼飯を食べていた、その人は箸で山を抓みだすとまた飯を食べ始めた。老人はその人の前に行き「わたしは鷲に石を投げたのにあなたのお椀にはいり済みませんでした」と謝った。
するとその人は怒りもせず丁寧に老人に食事を勧めた、その人は怒ったのではなく声が大きいかったのだ、老人は座って食事をする気も、別に言うこともないのですぐ鷲を追いかけた。あまり行かないうちにまた前に老人も高いという大きな山が現れた。山の上は白く光り一本の草一本の木もない、老人はやっと山の頂上についた、職人たちは老人が顔に一杯汗をかいているのを見た。諺に「登るは易く、下るは難し」言う。老人は頂上から下る時に足が滑って谷に落ちた。見ると、四方は石の絶壁だ、老人は何回登ってもまた滑り落ちてしまう。職人たちは四方を眺め、長い翼でもなければここから抜け出るのはとても難しいと思った。王三を見ると、いい考えが思いつかないのか眉をひそめている。
ヤヤ、また奇怪なことが起こった、不動の石の絶壁が動き、谷が動きまるだ盆をひっくり返したように逆さまになり、老人は谷底から落ちたのだ。幸い職人たちはしっかり老人の懐で老人の着物につかまっていて落ちなかった。職人たちは注意深く見ていたが、多くの不思議なことに出遇つてきた職人も、思わず驚きの叫びをあげてしまった。目の前に老人よりも百倍千倍も大きい男が寝ていて体を起こしたのである、アッ、やっとみんなは落ちた谷がこの大男の臍の中だったのがわかった。
大男は座ったまま体を起こすと手で目をこすった、大男は寝ていて、たった今目を覚ましたばかりなのだ。老人は「鷲が赤糸の頭巾をくわえて飛んで行きませんでしたか」と聞いた。
大男はこれを聞くと急いで立ち上がり手をかざして南を見て大声で言った「ア−、万事休す、あの褐色の鷲は南天門に飛び込んでしまった、アレ、あいつはずるいな、お前に追いかけられて、卵を一つ生んで南天門を塞いでしまったぞ」これを聞いた老人は胸を叩き足を踏みならして口惜しがり、職人たちも老人と一緒に口惜しがった。
大男は少し考えてから「お前たちわしの掌にのれ、わしが南天門の下まで届けてあげよう、そして鷲の卵をどけられるかどうか試してみろ」と言った。
老人は大男の言う通り大男の掌に這い上った、大男が掌を上に伸ばすと老人と職人たちは、たちまち地面から万里も離れていった。頭を上げて見ると、紫の雲の中に四方に金色の光を放す丸い門が見え、門は鷲の卵でしっかりと塞がれていた。老人は手でおしてみたがびくともしない。老人は悲しくなりハラハラと涙を流した。
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王三と職人たちは相談して老人に言った「ご老人、悲しまないで下さい、わたしたちがみんなで鷲の卵に穴を開けましょう、そうすればわたしたちは天に行って、鷲に追いつけますよ」と言った。
石工たちは一斉にカンカンとのみを金槌ちで打ち、卵の殻を破ろうとしたが、卵の殻は石よりも堅く、のみを打つ度に火花が散った。しかし王三と職人たちは挫けなかった、のみが摩滅すると鍛治屋は火を起こし、のみを打ってまた尖らした、金槌の柄が折れると大工が鋸と斧でまた新しい柄を作った。
とうとう鷲の卵はのみで破られ、卵の白身と黄身はが地上に流れ出した、そして白身は水の清く澄んだ青海となり、黄身はとうとうと黄色の水の流れる黄河となった。
今も青海は千万年も涸れず、黄河は千万年も流れ流れている。
あの働き者の職人たちは老人と共に天上に行った。それから天上で職人たちに何があったかは誰も知らない、もしかすると職人たちは天上にあった宝物を持って下界に戻って行ったかも知れない。
聊斎 * 子 1994・6・29