かまど神の由来 (一)
張郎は幼馴染みの丁香と結婚したが、のちに廓の女李海棠と情を交わした。丁香には子供ができず、張郎はそれをいいことに李海棠に入れあげ、丁香と離婚し海棠を後妻にした。
ところが、丁香は嫁いだ時に持ってきた土地二百坪余りに当る銀を持って家を出たので、張郎は貧乏になり、李海棠もついて来なくなってしまった。さて丁香はその銀を元に山あいの家を探して住んだが、張郎はどうにもならず乞食になるより仕方がなかった。
ある日、張郎はそうとは知らず丁香の家の前に立ち「お内儀さん、寒くてしょうがありません、熱いお湯を一杯恵んで下さい」と言った。丁香は自分を捨てたあの薄情な張郎を見て声もでなかった。けれども丁香は一緒に暮らした夫婦の情を想い、お椀にそばと汁を盛って出してやった。張郎はこの椀のそばと汁がとても美味しかったので、つい「あのー、お内儀さんはほんとによいお方だ、もう一杯恵んで下さいませんか」と言った、丁香は思わず怒って「張郎、あんたの目は節穴なの、一度は女房だったわたしをお内儀さんなどと呼んで」と言った。
張郎はこれを聞いて羞しくなり、かまどの鍋の下にもぐり込もうとした、だが、たった今、豆を煮たばかりで鍋の底は熱く、かまどには残り火もある、中にもぐり込んだら焼け死んでしまう、丁香は張郎をかまどの外に引きずりだそうとするが、張郎はかまどにもぐり込んで丁香と顔をあわさない、たちまち鍋の下の張郎にかまどの残り火がついて燃え上がり焼け死んでしまった。丁香はかっての夫婦の情で棺桶を買い、昔の夫として埋葬してやった。
丁香は心の中で“この人はわたしの幼馴染みの夫だった、夫は天、妻は地、何と言ってもわたしの初めての夫だ、その夫が鍋の下で死んだんだから、わたしにも夫婦の情は残る”と考え、丁香は張郎の姿を描いてかまどのそばに貼り、かまどに火を入れる度に念仏を唱えた。
近所の女たちが丁香の家に遊びに来てこの絵を見ると「ねえ、お内儀さん、この絵いいわね、わたしにも一枚描いてくれない」と言った。丁香はちょっと考えてから「この絵はわたしの夫よ、絵を持って帰えれば、あんたはわたしの夫を供養することになるのよ、それでもいいの」と言うと「いいわ」と言うので描いてやると、あちこちの家でも描いてくれと言う、丁香は誰にでも描いてやった。やがて村の家の何処にも絵が行き渡ると、近くの村でも描いてくれと言うので描いてやるようになった
あとになって、頭のいい人が木版に八仙人を彫り、その中に張郎、丁香、海棠やあれやこれやを彫り込み、かまど神の版画に仕立てた。やがて家々でこれをかまど神として貼るようになり、それから全国各地でこのかまど神が祠られるようになったのである。これがかまど神の由来である。
四老人故事集 1994.10.15