牡 丹

 昔、ある所に娘と母親が暮らしていた。母親は娘が生れる時、庭に大きな牡丹の花が咲いた夢を見たので娘に牡丹という名前をつけた。
 やがて牡丹は美しい娘に育ち、眉といい目といい、牡丹に勝るとも劣らない美しさであった。それに針仕事が上手で、それだけで充分暮らしていけた。

 ある日、大雨が降った、これは八月の天候で特別に冷たい東北の風が吹くのだ。暗くなって母親が「牡丹や、表の門を閉めておくれ」と言った、牡丹は門を閉めにでると直ぐ「お母さん、門の下に雨宿りの人がいるわ」と言って戻って来た。母が「誰か外に出て急にこの天気に遭ったんだろう、門じゃ雨宿りにならないから、なかに入れておやり」と言うと、牡丹は嬉しそうに出て行きその人を呼んで来た。見れば若い青年ですっかり雨に濡れていたが、なかなか凛々しい青年であった。

 しばらく話してから母親は牡丹にうどんを作らせ青年にだしてやった。うどんは細くて長く青年はこれまでこんな美味しいものを食べたことがなかった。
 八月の東北の風と雨は三日三晩というから、翌日も一日雨だった。青年は牡丹が気にいり、牡丹も青年が好きになった。青年は帰って父親に牡丹との結婚を話すと言い、牡丹はほかの人とは結婚しないと、そっと誓いあった。
 四日目に雨が止んで晴れ、青年は帰った。牡丹は一日、二日と待ったが、一か月二か月しても何の知らせもなかった、半年たち牡丹は青年を想い焦がれて病気になった、母親は医者に診せ薬を飲ませたが、よくならず病気になってから一か月で死んでしまった。

 青年は家に帰るとすぐ牡丹と結婚したいと父親に話した。これを聞くと父親は怒りだした、牡丹がどうと言うのではない、息子の結婚は昔から父母が決めることだ、それをなんで息子が自分で決めるのか、父親は親の決める娘と結婚させると言い、息子はどんな娘とも結婚しないと言い、父親と息子は互いに争って譲らなかった。青年は牡丹が恋しかったがすぐには結婚できないと言えば牡丹が悲しむと思い、会いに行きたくても行けなかった。そしてもう一年たつというのに父親はまだ承知しなかった。

 ある朝、青年が庭の土をならしていると井戸の傍らに一株の牡丹が生え美しい花を咲かせていた、青年が近づくと、花の上の露がくるりと動いた。青年はそれを見て悲しくなり、牡丹は今頃どうしているだろうと思い、もう土をならしている気になれず、鋤を放り出して牡丹の住む村に走って行った。
 青年は村に着いて牡丹は死んだと聞くと牡丹の墓に駆けつけ、人に笑われるのもかまわず声をあげて泣いた。すると墓の上から牡丹が生えて美しい花を咲かせゆらゆらと揺れた、青年はそれを見ると大声で「牡丹は死んでいない、牡丹は死んでいない」と叫けびながら家に走って帰った。

 青年が家に着くと父親は冷たい顔で「お前はわしの子ではない、わしはお前の父ではない」と言うと、青年はすぐ身をひるがえして、笑いながらまた大声で 「牡丹は死んでいない、牡丹は死んでいない」と駆け出した。父親は息子のこの様子を見て後ろについて走った、青年を父が後ろから追いかけていくと大きな風が吹き、大きな龍が牙をだし爪を立てて二人につかみかかってきた。するとこの時、道に一株の牡丹が現れ、美しい花を咲かせ茎を曲げ父と子の身を守った。

 龍が去り風もやむと、青年はいなくなり、牡丹の花の上に鳳凰が現れ一声叫ぶと、またたくまに見えなくなり、牡丹の花も消え、明るくなった道に青年の父親が独りそこに残されていた。    

         聊斎 * 子                                         1994・6・8

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