綿を紡ぐ

 昔はみんな糸車で綿花から糸を紡ぎ布を織り衣服を作って着たものだ。
 ある家の娘が嫁に行き、婚家に半月ほどいて、里帰りで家に戻ると父親をみるなり泣き出した。父親は 「お前、帰って来るなり、いきなりなんだ」と聞くと、娘は「お父さん、夫の家は毎日夜中まで糸を紡ぐのよ」と言った。父親は「姑さんも紡ぐのだろう」と言うと「お舅さん、お姑さん、義妹さんも夫もみんなやるの」父親はそれを聞くと「お前、もう泣くな、わしがお前を送って行って、もう糸紡ぎをしないようにしてやるから、だがあとになってわしに文句を言うなよ」と言った。

 娘は何日か実家に泊まり、父親が送って婚家に戻った。婚家で娘の父親に料理をだすと父親はゆっくり昼過ぎまで食べていると、座り直して煙草に火をつけ、もう夜になろうという時にやっと立ちあがって帰り、村はずれの崖の下にしゃがみ込んで夜中になるのを待った。
 姑は嫁の父親が帰ると「嫁さん、さあ仕事をはじめよう」と言い、舅と夫は綿花を打ち、義妹は綿を選び、姑は糸車を持ってきた。娘は心の中で父親にうまく騙されたと思っていた。糸紡ぎがひとしきり終わり、みんな静かになった。

 夜中になって、娘の父親は村はずれの崖の下から立ち上がり、皮の袷を裏返しに着てそっと村に戻り、娘の婚家の屋根に登り重々しくしゃがれた声で「綿を紡げば紡ぐほど貧乏になる、綿を紡げば紡ぐほど貧乏になる」と言った。姑は家の中でこれを聞き、あたしらの綿紡ぎが神様の心に触れたらしい、神様の気を悪くしないようにもう綿を紡ぐのは止めよう」と言った。

 三年たった。娘はまた父のもとに帰り泣きだした、父親は「お前の家ではもう糸を紡がないのにどうして泣くのだ」と聞くと娘は「糸を紡がなくなったら、大人も子供も綿入れの袷がなくなってしまった」と言った「だからわしはお前に、あとでわしに文句を言うなと言っただろう、泣くな、わしがまたお前の家で綿を紡ぐようにしてやるから」と言った。
 娘は何日か泊まってまた父親に送られ、婚家に戻った。父親はまた村はずれの崖ので夜になるのを待ち、前と同じようにして、娘の婚家の屋根に登り、重々しいしゃがれた声をだして「綿は白い宝だ、紡げば紡ぐほどよくなる、三年紡がなかったから、新しい袷にかえろ」と言った。

 姑はこれを聞いて家のみんなに「神様が綿を紡げと言った、またみんなで綿を紡ごう」と言った、それからまたみんなで綿を紡ぎ、やがてみんな新しい綿の袷を着るようになった。娘はもう実家の父親に泣きつくことはなかった。   

          聊斎 * 子                                        1994・6・6

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