処刑の前に母に会う

 昔、ある家に一人っ子がいた。母親はこの息子に間違いも悪い事も教えず甘やかして育てた。ある日、息子が市場から魚を1匹盗んで来ると、母親は「息子や、誰も見ていなかったかい」と聞き、息子が「いなかったよ」と答えると、母親は「マア、お前はいい子だね、明日、魚屋が見ていない時にまた持って来ておくれ、お金を払わないで済むからね」と息子をおだてた。

 すると息子はそれから、今日は塩、明日は針といろいろな物を盗んで来た。人がそれを言って来ても母親は取り合わなかった。こうしてこの息子は成長して一人前の泥棒になった。ある時、人の金を盗もうとして見つかりその人を殺し、たちまち捕えられて死刑を宣告された。

 その処刑の日、息子は母親に会うことを求め許されると、母親の乳が吸いたいと言った。母親が襟を開くと息子は母の乳首をくわえて噛み切ってしまった。息子は母親から甘やかせれて育ったことを恨んだのである。    

                                                         姜淑珍故事選 

 付記

私はこれを読んでこれこそ中国の昔話だと、衝撃を受けたが“民話と文学の会・かいほう85”(1998年3月)に85歳のSさんが小学3年生の時に父から聞いた話として、つぎの昔話を記しているのに驚いた。

 昔、大泥棒がつかまった。なんで泥棒をするようになったと聞かれて、寺子屋で紙を盗んで来た事を母親に話しだと。母親は「誰にも見つがらながったが」と聞いたど。子供ぁ、「ああ、誰にもめっかね」と言うど、「そいづぁ、よがったな」と、母親は喜んだとさ。そんで、その子供ぁ、誰にもめっかねば、悪いごどをしてもいいと思ったって、大人いなって大泥棒になって、三尺高え木さ吊るされでな、縛り首になるつ時に語ったどさ。

 そのあとで、イソップ物語にも悪事を働いて縛り首になる男がその直前に母の耳を噛み切る話があることがわかってまた驚いた。=“イソップ寓話集”(岩波文庫)『盗みをした子供と母』=

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