銀 貨
朝から晩までどうすれば人を騙して金を儲けるかだけを考えている金持ちがいた。
それで日がたつにつれて誰もこの金持ちには近づかなくなり、影では“三刀子”とあだ名されていた。彼は張という小作人を雇い自分の畑を耕させ、収穫した穀物はみんな自分のものにして、小作人には少しばかりの実のないもみや黴のはえた物しかやらず、いい穀物は売って銀貨に換えて蓄えた。銀貨は増えるばかりである。
ある晩、金持ちはこの銀貨を盗まれる夢を見て驚き、冷や汗をかいた。それでそれからはずっと銀貨を身につけていた。ある年の夏、雨が降り続き、村の東に流れる河が洪水となり、みるみるうちに家が倒れ、小作人の張の家には何もなくなり、張は二つ残った高梁餅を持って大きな木に這い上がった。
金持ちはこれは捨てられない、あれも捨てられないと慌てたが、最後には身につけた銀貨だけを持って木に登った。雨は降りやまず家は流され、何処もかしこも満々の水であった。一日すぎたが水はひかない、小作人の張は木の上で高梁の餅をかじった、金持ちは光る銀貨をだしてはながめまた袋にしまった。
それからも小作人の張は残った高梁餅を少しづつ食べた。それをみた金持ちはもう腹が空いてたまらず「俺の銀貨とお前の高梁餅を取換えよう」と言った、張は銀貨と取り替えれば餅はなくなってしまう、餅をとっておけば飢え死にはしないと思い、金持ちに「銀貨は食べられないから俺は取り替えない」と答えた。
金持ちは手に銀貨を持ったまま飢え死にした。
聊斉 * 子 1994・5・4
<注> 熊野本宮への山中の道に、腹を空かせ小判を口にくわえたまま死んだ巡礼を供養する小判地蔵があ るという。