婿選び

 紙人形師の王爺さんは娘の婿を探していた。王爺さんは娘ほど器量よしはいないと思っていたから娘婿は男前がいい町の青年でなければ駄目だと言っていた。だから人が婿を世話しようしても東村にはそんないい男はいない、西村や北村の男も駄目、南村にもいないというわけで、隅から隅まで探しても、王爺さんにかなう男はいなかった。
 劉婆さんは 「王さんや、お前さんの紙人形は生きた人間になるのかい、紙人形にだって、そんな都合のいい人はいないよ」と言った。これを聞いて王爺さんはハタと気がつき、早速自分の思いどうりの男前の紙人形をまるで生きているように作り上げた。そしてその人形を自分の傍に座らせ、仲人をしょうと言う人が来ると、先ず婿になるその男がこの紙人形に比べてどうかを聞き、紙人形ほどでないと言えばすぐ断ってしまった。

 どの仲人もみんな頭を振って「村にはこんな色白な青年はいない」と言って日ごと、年ごとにだんだん世話するという仲人もいなくなってしまった。王爺さんは娘が20歳をいくつも過ぎてから心配になり始めた、娘も心のなかでは焦っていて金持ちの家は礼儀がうるさいし、妾もいるから面倒だと思ったり、村の若者を馬鹿にしていたりしたが、真面目で端正ならば農民でもいいと思っていた。
 娘はこんな考えを母親がいないので、父親に自分の気持ちを言いにくかったが、時にははっきり言って父親と口論した。すると王爺さんも七、八分はそうも思うのだが、やはり心の奥では村の者を嫌っていた。

 ある日、王爺さんが紙人形のとなりに座っていると、一人の町の旦那らしい男が馬に乗って走って来ると、王爺さんの目の前で馬から跳び降り「このわからずやめ、俺はお前を三日も捜したんだぞ」と言うなり紙人形の横っ面を殴り人形を壊してしまった、王爺さんは立ち上がって「この野郎、どうして俺の紙人形を壊すのだ」と怒鳴った。するとその人は「すみません、わたしの弟とそっくりなのでつい間違えたのです。弟は母と小さな事で争い三日前に家を飛び出したので、思わずカッとしたのです」と言った。そこで王爺さんは「あなたの弟さんはこの紙人形にそっくりなのですか」と聞くと「そっくりです、こんなに似ているのは外にないでしょう」と言うと、王爺さんは実はこの紙人形のような娘婿を探しているのですがと話をすると、その人は「それはちょうどいい、弟はまだ結婚していないのです、ずっと探していますが似合いの娘さんがいないのです」と言った。そこで王爺さんはその家を訪ね、この運命には逆らえないと言い、占い師にも占って貰うとやはり大吉とでたので王爺さんは娘の気持ちも聞かずに、この結婚を決めてしまった。

 実ははこの人は張と言う地主で二人兄弟、兄のこの人は普通に成長したが、弟はアヘンを吸い顔はどす黒く、あばただらけ、おまけに藪睨みで、口は曲がり頭は禿げ、二度と見られないような顔なので嫁のなり手がなかったのである、ところがこの兄が王爺さんの婿選びの話を聞いて、こんな方法を考え出して王爺さんの娘を騙そうとしたのである。
 間もなく他人を弟の身替りにたてて王爺さんの娘を嫁に迎えに行き夫婦にすると、弟は見破られないようにいつも、夜暗くなって妻の部屋に来て、母親が女の神さまを祭っているからと灯をつけさせず夜の明けないうちに出て行った。
 こうして一、二か月過ぎてから、何時までもこうしているわけにはいかない、何か方法を考えなければと家族で相談した。嫂が「弟を杏売りに変装させ、弟嫁に杏を買わせて、会わせたらどうだろう」と言った。相談が終わって、弟は杏を担いで「あんず、あんず」と町を売り歩いた、母親が弟嫁を呼んで「外に杏売りが来たようだ、お金をやるから、お前買ってきておくれ、みんなで食べよう」と言った、しばらくして、弟嫁が杏を買ってきてみんなで食べたが、弟嫁は食べなかった、母親が「お前どうして食べないの」と聞くと弟嫁は「お義母さん、杏売りを見なっかったのですか、汚らしくて、わたしは食べられません」と言った。家族はこれを聞いてまた困ってしまったが、兄嫁はまた「良い方法を考えました、きっとうまくいきます」と言った。

 夜になって弟が妻の部屋に入ると嫂は頭の髪を乱し、皮の袷を裏返しに着て、銅の盆を持って南の屋根に股がり、銅の盆をタンタンと叩き、気味の悪い怪しげな声で「わしは天上の黒い厄星だ、下界の器量よしを苦しめに来た、一人はいいが、夫婦とも器量よしはどちらか一人が醜くなれ」と騒いだ、弟嫁は障子をなめて破り覗いて見ると、月の光のなかに人でもない、獣でもない何かが南の屋根に股がっていた。驚いてアレ−と叫び頭を引っ込めると屋根の上でまたタンタンと音がして「早く醜くなれ、早く変われ、遅くなれば命はないぞ」と聞き慣れない言葉で叫んでいる。弟は妻に「駄目だ、俺が変わる」と叫びながらオンドルの上を転げ回った、ひとしきり転げ回ると外は静かになり、弟は自分が醜くなったと言った。

 翌日、朝早く弟嫁は夫がどうしてあの杏売りと同じように醜くなったのか不思議に思った。そして見れば見るほど嫌になり、考えれば考えるほど我慢できず、ひと思いに首を吊って死んでしまった。  王爺さんはこの事を聞いて娘が自殺したのは娘の罪ではないとわかった、しかしこの金持ちをお上に訴えることもできず、ただ自分で自分を責めるしかなかった。

         聊斉 * 子                                           1994・5・1

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