身替わり
現世に恨みを残して霊界に来た男が人間に生き返りたいと思っていた。男はもう何回か生き返り、現世と霊界を往ったり来たりしていたのだが、いつも生き返るのは豚か鶏か猫か犬だったので、なんとかして人間に生き返えれないかと確かめてみると人間に生まれ返るには閻魔へ賄賂がいることがわかった。
この男は生まれつき頑固で強情で、現世でも霊界でも道理がなければならないと思っていたから、天帝の霊界巡察の時にこの閻魔のことを直訴した。これを聞いて天帝は非常に怒り、閻魔をひきたてて、いろいろと文句をつけ、何事も公平にしろと叱った。
天帝が帰ってから閻魔はこの男を閻魔殿に呼びつけ皮肉たっぷりに「お前のしたことで、わしは正道に立ち返った、これからはお前に敬意を表そう」と言った。
男が「そんなことはどうでもいいから、俺を早く人間に生き返らしてくれ」と言うと、閻魔は「そんなことはたやすいことだ、だがお前は霊界のきまりを知っているのか」と言った。「どんなきまりだ」 「霊界の者が現世の人間になるには、必ず現世から身替りをつかまえて来るのがきまりだ」 「身替りをつかまえるだって」 「そうさ身替りだ、現世でまだ寿命のある者をつかまえ、お前の替わりに死なすのだ」 「いったい誰が死ぬのだ」閻魔は手をのばして壇上から閻魔帳を掴むと男に渡して「書いてある名前の中のどれでもいいから決めろ」と言った。
男は閻魔帳を始めから終わりまで見ると、怒ってすぐに閻魔帳を破り、閻魔を指差し「お前どうして善人を身替りに死なすのだ」と言うと閻魔はクスクス笑い「諺にも“善人は苦労しいじめららる”と言うではないか、これはわしの善人への特別なはからいだ」
男はどうしようもないと苦笑いして「それなら、いっそ俺は永遠に生き返らなくてもいい、善人を死なすなんてできない」 「そうか。それなら、お前の正しい道理とやらを立ててやろう。誰か、奴を地獄のいちばん奥へ閉じ込め、永遠に生き返らせるな」と言った。二匹の鬼はすぐに鉄の鎖で男を縛り、地獄の底へ閉じ込めた。
男が「冤罪だ」と高く叫ぶと、閻魔は「ハハハ、お前は前世に恨みを残した幽霊なるのだ」と嘲笑った。
薛天智故事選 1994・3・9