昨夜のあの二人
人は年をとると若い者のようにすぐには眠れず、おおかたは寝つきが悪くなるものだ。
さて、ひどく寝つきの悪い爺さんと婆さんがいた。夜、横になっても爺さんと婆さんの眠り虫は目の皮にとりつかない、大きな二つの目玉をあけて、屋根裏のたる木を数えているうちに、鶏が鳴きだす頃になり、やっと少しばかり目を閉じる。
その晩も、爺さんと婆さんは屋根裏のたる木の数を数えるのもあき、寝返りをうって、顎を枕の上にのせ、おしゃべりをしながら外を見ていると、鼠が家の中へ入って来た。
爺さんが「ヨォ、来た」と言うと、婆さんがすぐ「二匹」と続けた。鼠はその気配を感じ「チョロリ」と一匹が逃げた、婆さんはまた「泥棒鼠、おじけついて逃げたな」と言うと、あとの一匹も「チュ」と逃げた、「婆さん、あとの奴も逃げて行った」とこんどは爺さんが言った。
ちょうどこの時、二人のこそ泥が門を入り、爺さんと婆さんの部屋の様子を探っていた。そして爺さんの「ヨォ、来た」という言葉を聞き驚いてふるえてしまった、この爺さんは千里眼だ、俺たちが入って来たのをもう知っている、みつかったかとビクビクしているうちに、婆さんが「二匹」と言ったのでまたびっくり、あれこの婆さんは爺さんよりもっと千里眼だ、寝ているのに、俺たちを二人だと見抜いたと思い、二人のこそ泥は目くばせしてまず一人が逃げた。そのとたんに「泥棒鼠、おじけついて逃げたな」と婆さんの声を聞いてもう一人も驚いて逃げ出した、続いて「あとの奴も逃げて行った」と爺さんが言ったので、二人のこそ泥は「しまった」と一目散に逃げた。
俗に“邪心は消えず”と言うが、この二人のこそ泥も何もとらずに逃げ出したことを口惜しがり、爺さんと婆さんはほんとうの千里眼かどうかと、翌日、さつま芋二籠を天秤棒で担ぎ、芋売りに化けて探りにやって来た。
二人のこそ泥は爺さんと婆さんの家の門の前に担いで来たさつま芋をひろげた、婆さんが出て来て、ちょっと値段を聞くと馬鹿に安い、婆さんは芋をあちこちひっくり返していると、鼠のようなさつま芋がでてきたので振り向いて「お爺さん、早くおいで」と叫んだ。
爺さんが慌てて「何を騒いでいるのだ」と出て行くと、婆さんは籠のさつま芋をさしながら、爺さんの耳もとに小声で「お爺さんや見てごらん、昨夜のあの二匹に似てるじゃないか」と言った、二人のこそ泥はこれを聞くや、実の母親の前の小さな子供ようになって、このお婆さんはほんとうに生き神様だ、一目みただけで俺たちを昨夜の二人と見破るなんて、早く逃げよう、二人は目を見合わせて、担いできた二籠のさつま芋を放り出して逃げてしまった。
爺さんと婆さんは二籠のさつま芋をただで拾ったが、どうして芋売りが芋を捨てて行ったのかわからなかった。
薛天智故事選 1994・3・4