雷が落ちる
昔、十数戸の小さな集落の中に王という若い夫婦が住んでいた。亭主は出稼ぎに行き女房は一人なので、一日中あっちの張家、こっちの李家で喋り、縫い物もしなければ鍬も持たず自堕落に暮らしている。
この女房の家の前に働き者で実直な爺さん婆さんの老夫婦がいた、子供はなく、春には二人一緒に畑を耕し草をむしり、秋にはまた二人で畑の収穫をし、畑仕事が一段落すれば爺さんは行商に出かけ、つましく暮らしていた。
だから老夫婦の手許には少しばかりではあったが、何時も幾らかの蓄えがあった。それでも婆さんは心配で「あたしらには息子も娘もいないから、日頃から少しでもお金を溜めておかなければいけない、もっと年をとって動けなくなった時の暮らしに困るからねえ」と言うと、爺さんも「そうだ、足腰の丈夫なうちは畑仕事も行商もやっておかなければな」と言った。
何日かして畑が終わり、爺さんは行商に出かけ日に三百、五百文の金を稼いだ。
ある日、商売が馬鹿にはかどり爺さんに大きく金が入り、夜になって帰ると婆さんに金を渡したが儲けた金が多くなって入れておく箱がない、どうしよう?、爺さんが「あの瓢箪の器がいい」と言った、婆さんも「うん、下にお金を隠して上に幾つか卵をおいておけば泥棒が来ても見つかるまい」と言った。
そこで爺さん婆さんは金を瓢箪の器にしまい「このお金は大事にして、盗られないようにしなきゃ、わしら二人の金だからな」 「ここに隠したのはあたしとお前さんしか知らないんだし、それにあたしが一日中家にいるんだから、盗まれるなんて縁起でもない」 「そうだ、この金は朝から晩まで働いてできた金だからな」と話し合った。
ところが“壁に耳あり障子に目あり”その晩の爺さん婆さんの話をすっかりあの王の女房が聞いてしまった。翌日朝早く爺さんはまた行商に出かけた。昼になって婆さんは火を起こそうと薪を取りに家の外に出た、その一瞬のすきに王の女房は爺さん婆さんの家からあの金を隠した瓢箪の器を盗み出して逃げた。
薪を抱えて戻った婆さんが家の中に入ると、あの瓢箪がない。エエッ、今あったのに、こんな短い時間にどうしてなくなったのか、盗まれたとは思わない婆さんは慌ててあっちこっち探した、だが何処にもない、婆さんは情けなくなって涙が出て泣きながら「お爺さんが死に物狂いで稼いだお金がなくなってしまった、どうしよう」と叫ぶとますます悲しくなり、死んでしまおうと思いつめ、家の外の大きな柳で首を吊ろうと縄を持って家を出た。すると今まで晴れていた空がなべの底のように黒く曇ってきた。
さて、金の入った瓢箪を盗み出した王の女房は自分の家に戻り、嬉しくなって瓢箪の中の金を出して数えていると、ゴーと風が吹いて戸が開いた、頭を上げると大雨、慌てて盗んだ金をもとの瓢箪にしまい、薪が濡れてはいけない、薪をしまおうと、いったん外に出たがまた戻って戸棚から風呂敷を出して瓢箪を包み首にかけ、薪を抱えて家の中に駆け込もうとすると、雷が女房の頭の上で“ピカッ、ゴロゴロ”と鳴り出した、女房は驚いてその場に座り込み、家に入ろうとするが一歩も動けない。
雷が“ピカッ、ゴロゴロ”と女房の頭の上で何回も鳴ると、女房はハッと気がつき、跪いて天を仰ぎ「雷さま、許して下さい、瓢箪のお金は返します」と言うと急に体が軽くなった、女房は起き上がって大急ぎで老夫婦の家へ行くと誰もいない、女房は金の入った瓢箪の器を床に置くとすぐ自分の家へ逃げ帰った。すると雲が晴れ雷の音も小さくなり、しばらくすると、雨がやんで太陽が出て来た。
さて、婆さんは首を吊ろうと大きな柳の木の枝に縄をかけると、“ピカッ、ゴロゴロ”と大きな雷が落ち、大きな柳の木の枝が折れ、婆さんも転んで気を失ってしまった。
話変わって、行商に出た爺さんは、空が曇り今にも雨が降りそうになったので急いで家へ帰ると、洗った米は鍋に入れてない、婆さんもいない。薪を取りに行ったのだろうと爺さんは腰を下ろして一服つけ、ひと休みしたが婆さんはなかなか帰って来ない、どうしたのだろうと外に出て家の後ろを探すと、婆さんが柳の木の下に倒れている、急いで助け起こして背負い家に入って寝かせると、婆さんはゆっくり目を開き「アレ、あたしはどうして死んでないのだろう、どうして?」と言った。
爺さんは「お前、朝は元気だったのに、どうして死のうとしたんだ?」と聞いた、婆さんは起き上がって、今までの事をすっかり話した、爺さんはそれを聞くと「天の雷さまは何も悪い事をしていないお前を死なすわけはない」と言った。
ところで、王家の女房はそれからもう良心に恥じる事をしなくなり、どんな大きな雷がなっても驚かなくなったということである。
姜淑珍故事選 2001・1・20