兄と弟の死
昔、長白山の麓に幼い時に両親を失った兄弟がいた。貧乏で父母の死後に残されたのは倒れかかった破れ小屋だけだった。もちろん食べるにも着るにもこと欠いた。だが兄弟は互いに一つの饅頭も分けて食べ、一つ服も譲り合って着るほどの仲であった。それで村人たちはよくできた兄だと褒め、弟も素直だと言っていた。
やがて兄弟は所帯を持つ年頃になったが、家には何もない。これでは何処の家の娘も嫁に来てくれない。ある日、兄は弟に「オイ、二人で長白山へ行き、運試しに薬用人参を掘ってみようじゃないか」ともちかけた、弟も「それはいい」と支度を整え、食糧を担いで深い山、谷の奥へ入って行った。 兄弟は何日も長白山の中を歩き回り、食糧も少なくなったが人参は見つからない。弟は「兄さん、俺たちには運がないらしい、もう帰ろう」と言ったが、兄は「途中でやめるのはよくない、一緒に探していたからいけないんだ、今度は左と右に分かれて探し、麓で会おう」と言い、兄弟は分かれて探すことにした。
やがて兄弟は人参のあり場を探し当て喜んで、慎重に掘り出すとその大きさに驚き、あやふく笑い転げそうだった。なにしろ、兄が手にした大きな人参は十何両にもなりそうだったからだ。兄は人参を丁寧に包むと「サア、帰ろう」と言い、弟は「兄さん、気をつけてよ、この宝物を落として傷つけたら大変だ」と言った。
こうして兄弟は喜び勇んで家路についた。道々、兄は“この人参は大きいからたいした値打ちの金になるだろう、もし俺が独り占めできれば大きな家を建て、広い畑を買い、おまけに綺麗な妻を娶り、生涯幸せになれるのになあ!惜しいかなやっかいな弟がいる”と思い、弟もまた“この大きな人参はまたとない宝だ、もしこれを俺が独り占めにすれば、これで質屋を開き商売をして金をため、官位を買って一生幸せに暮らせるのになあ!だが恨むべきは余計な兄貴だ”と考え、それぞれに腹黒いことを胸にしていた。
しばらく行くと兄弟は腹が空いてきて、兄が「オイ、俺はあの店で酒を買って来る」と言うと、弟は「じゃあ、俺もあっちの店で食い物を買って来る」と言って、兄は酒を買いに弟は食い物を買いに行った。やがて兄は酒を弟は食い物を持って嬉しそうに戻って来ると道端の石に座り、まず兄が「まあ一杯飲め」と弟にすすめ、弟は「兄さんも一口食べて」と兄に食い物を差し出し、兄が先に食い物を食べた。弟はこれを見て“やった!あれには砒素が入っているから兄貴はイチコロだ、人参は俺のものだ!”と喜んだ。それから弟は兄のすすめた酒を飲んだ、兄はこれを見て“しめた!俺は酒の中に砒素を入れたから弟は一口で死ぬ、あの人参は俺のものだ!”と喜んだ。だが兄も弟も食い物と酒が腹に入ったとたんに腹の中が刀で切られるように痛み、兄も弟も“ハッ”と気がつき、同時に何か言おうとしたが、言葉が口から出る前に、兄も弟もバッタリ道端に倒れて死んだ。 薜天智故事選