蛇 郎 (蛇 婿)
昔、ある山の麓に老父と大蘭、小蘭という姉妹が住んでいました。姉妹はよく似ていましたが、姉の大蘭には顔に小さな丸い傷が二つありました。
ある日、老父は山で柴を刈っていて足を滑らし、谷底へ落ちて上がれなくなってしまいました、その時、一人の若者が現れ老父を谷から引き上げてくれました。老父はたいそう喜んで礼を言い、若者が蛇郎という名で、山の中で一人で暮らしていることを知ると「わしには二人の娘がいるが、一人をお前さんの嫁さんに上げるから、三日たったら山の麓のわしの家に娘を迎えに来ておくれ」と言いました。すると蛇郎は「本当ですか」と喜ぶと、蛇の姿になって山の奥に消えて行きました。老父は初めて蛇郎が蛇の精であったと知り、驚きましたが、約束したことはもうどうすることもできません。
老父は家へ帰るとすぐこの話を姉妹にしましたが、姉の大蘭は「蛇と結婚するなんていや、あたしはお金持ちの人間と結婚するわ」と言いました、老父は三日後、蛇郎に娘を迎えに来てくれと約束してしまったので、困って寝てしまいました。すると妹の小蘭が「おとっつあんが約束したのなら、わたしが蛇郎さんと暮らします、蛇の精でも貧乏でもかまいません」と言いましたので、老父はやっと安心して起きました。三日目に蛇郎が小蘭を迎えに来て一緒に蛇郎の家へ帰りました。 蛇郎、小蘭の夫婦はよく働き、日増しに暮らしが楽になっていきました。やがて小蘭は老父と姉の大蘭に沢山のお土産を持って里帰りをしました。大蘭は小蘭の綺麗な着物や美しい姿を見て羨ましくなり、小蘭が帰るのを送って行くと言ってついて行きました。河まで来ると大蘭は小蘭に「小蘭、あんたはとても綺麗になったわね、あたしたち二人は同じように育ってきたのに、今はあんたはあたしよりずっと着物を持っているのだから、あんたの着物をあたしに頂戴よ」と言いました、優しい小蘭は大蘭の話を聞いて着ている着物を取り替えてやりました。大蘭は「小蘭、河の水にあたしたちを映して、どっちが綺麗か見てみよう」と誘い、小蘭が河の岸に立つと大蘭はいきなり後ろから小蘭を河の中へ突き落としました。そして大蘭は小蘭になりすまして、蛇郎の家へ行きました。蛇郎は大蘭の顔の二つの小さな丸い傷を見つけて「小蘭、顔の二つ丸い傷はどうしたんだい」と聞くと、小蘭になりすました大蘭は「枕に豆が二つあって、寝ている間に豆のあとが残ったのよ」と嘘をつきました。
蛇郎は小蘭(実は大蘭)が里帰りから戻って少し不精になったと気がつき、また大蘭に「私はお前が少し変わったと思う、前はあんなによく働いたのに」と聞くと、大蘭は「あたしも働きたいんだけど、実家から帰ったあと体の具合が悪いのよ」と答えました、優しい蛇郎はそれからは何も言いませんでした。 ある日、蛇郎が河へ水を汲みに行くと一羽の小鳥が飛んで来て、いくら追っても蛇郎から離れようとしません、蛇郎は小鳥を連れて帰ると鳥籠を作り、窓にかけて置きました。翌朝、大蘭が起きて髪を櫛でとかしますと、小鳥が「羞しくないの、羞しくないの、わたしの櫛で髪をとかして」と鳴きました。大蘭は驚いてすぐ小鳥を締め殺し、ナツメの木の下に埋めてしまいました。そして蛇郎が帰って来ると大蘭は「小鳥は猫がくわえて行ってしまったわ」とまた嘘を言いました。 ところがまた不思議なことが起きました。ある日、蛇郎がいない時、大蘭がナツメの木の下を通ると木の枝が棘のように垂れてきて大蘭を刺しました、大蘭は怒ってナツメの木を切り倒しましたが、それでも気がすまず火をつけて燃やしました、すると火花が飛んで大蘭の体に燃えうつり、いくら消しても消えずとうとう大蘭は焼け死んでしまいました。蛇郎は帰ると小蘭(実は大蘭)が焼け死んでいるのを見て泣きました、蛇郎は嘆き悲しみながら小蘭(実は大蘭)を土に葬りました。 そして蛇郎はまた一人で暮らしはじめました。ある日、蛇郎が河へ水を汲みに行きますと、また一羽の小鳥が飛んで来て蛇郎のまわりを飛び、どうしても離れません。小鳥はそのまま蛇郎について一緒に蛇郎の家へ帰りました。蛇郎が汲んで来た水を瓶にあけ、後を振り向くと其処に小蘭が立っていました、蛇郎はまさかと、目を強くこすって見直すとやっぱり本当の小蘭でした。小蘭は今までのことをすっかり蛇郎に話しますと、蛇郎は「ああ、悪は悪で報くわれるのだ」と言いました。それから二人は幸せに暮らしましとさ。
中国山東大学三年の女子学生が話してくれた<蛇婿>を、私の語りにした。