街で拾った恋

 高天雲は廃品回収所の店員である。一日中いろいろなガラクタを取り引きしているから、世間では廃品回収所の店員を“ごみのルンペン”などと呼んでいる。高天雲は体も大きくなかなかの男まえで、恋人もできるのだが、女の方が彼の職業を聞くとすぐ断ってくるので今年30歳になるがまだ独身である。
 近頃、世間では街で求愛するのが流行で、たくさんの青年が街角で探した恋人と良縁を得ていると言われていた。彼はこれを聞いて遅くればせながら、自分もひとつ試してみようと心に決めた。

 ある日、彼は夕食のあと、綺麗に洒落こんでバスに乗り南京路に出かけた。道路には一人で歩く娘が大勢いて、スタイルもよく人をひきつける美人も少なくない、しかし彼は勇気がなくて、赤の他人のこの娘たちに向かうと、もじもじしてしまう。後の方でじっと半時間も立っていると、中百公司から外灘までフェリ−ボ−トで渡って来る一人の娘が彼を見つめている、すると彼は恥ずかしくなって反対の方を見てしまう。ああ、こんな風に気が小さいなら彼は一生涯、和尚さんでいるのがふさわしい。
 翌日、彼は気を取り直して上海の西のウルムチ路に行った。彼はこの通りは夜は人が少なく、一人歩きの女性に遇っても照れないですむと思ったのだ。だが実際はこうはいかなかった、彼は歩いて来る見知らぬ娘の前に出ると、どういうわけか前もって考えていた言葉をみんな忘れてしまうのであった。

 すると突然、彼は後から人につかまえられ「すみません、助けて下さい」と言葉をかけられた、振り返って見ると20歳を過ぎた位の女性が怯えながら早口に、映画を見終わって出ると、ならず者にまとわりつかれて怖くてしょうがないと言うのだった。高天雲はならず者は何処にいるのかと聞くと、その女性は男は復興路からずっとつけて来て、ボタンのついたシャツを着た背の低い太った男だったと言う。高天雲はそれだけ聞くとすぐ、さっと復興路に向かった。しばらく行って電信柱の影などを見たが、そういう男はいない。戻って見ると若い女性はまだもとの所に立っていた「いませんでしたよ」と言うと、女性はほっとはしたが、まだ胸をドキドキさせびくびくしながら「ああ驚いた、あたしまたあの悪者に遇ったらどうしようかしら」 「すぐまた助けを呼べばいいですよ」 「でも、あなたのような好い人が来てくれるかしら」 「それは……」と言って高天雲はちょっと黙った。

 女性は高天雲のがっちりした体を見ながら、丁寧に「あなたのような好い人はいないわ、わたしの家は遠くないから、送ってくれないかしら」と言った。高天雲は日頃から他人から手伝いを頼まれれば必ず引き受ける親切な性格なので、その女性の願いをあまり考えもせず承諾して送ってやることにした。
 歩きながら女性は自分は紡績工場に勤め、名は張美英ですと言ったあと、丁寧に高天雲に名前と仕事を聞いた、高天雲は溜め息をつきそれでも正直に「私の姓は高。仕事は最低の廃品回収業です」と言うと、張美英はわたしはそうは思わないと言うように「テレビ映画の『廃品王』をあなた見なかったの、廃品回収の物語よ、廃品回収がどうして悪いの、人があなたを馬鹿にしたらあなたがそんな人は馬鹿にすればいいわ」と言った。

 高天雲は自分の職業をはっきり言えば、この女性も送ってもらわないと言うのが当たり前なのに、女性が自分を差別的に見ないとは思ってもいなかった、それに彼にたいして情を持ってくれたのは意外であった。これは鉄のわらじを履いても捜せないようなことを全く労せず得たことになるのではないか。街で恋人捜しをしても一つも収穫はなかった、それなのにまさかこんな女性に遇えるとは思ってもいなかった、彼は嬉しくなって「張さん、あなたのように言ってくれる女性は本当に少ないですよ、わたしは初めてです」と言った。

 二人は話したり笑ったりしながら知らず知らずに二つの道路を横切り、張美英の家に着いた、アパ−トの前で高天雲は時計を見ると、もうおそいので家まで送るつもりはなかった。けれども張美英は家でお茶を飲んでから帰るように言った。高天雲は道で彼女と話して気が合ったし、初めての異性と仲よくなれたので、心の中ではこんなに早く別れたくはなかった、だから彼女の言葉は願ったりかなったりだったが、彼は女性と接触するのは初めてで経験もなく、何も持たずに張美英の両親に会うのは具合が悪い、日を改めて訪ねよう、夜おそく訪ねては両親に、何も知らないと思われると言うと、張美英はそれを聞きハハハと大笑いして「あなた馬鹿ね、今夜は父も母も仕事に行って、家には誰もいなのよ、それにたとえ家族がいたって、あなたはわたしを助けてくれた恩人なのよ、お礼を言うだけでは済まないのに、あなたを悪く言うわけないわ」と言った。

 高天雲は彼女が優しく言うので一緒に行った、張美英の家は大きなアパ−トで2LDであった、部屋の中はセンスよく整えられていた、部屋へ入ると、張美英は彼をソフア−に座らせ、高天雲にお茶をいれてくれた、それから冷蔵庫からビ−ルと7、8個の缶づめを取り出した、鶏、鴨、魚、肉などいろいろとテ−ブルに並べた、高天雲はこの様子を見て、思わず手をふり「いやあ、こんなにお客扱いされて私にはあいませんよ」張美英は彼に流し目を送りながら甘ったれた声で「あなたは大きな体をしたいい男のくせに言うことは娘みたいね、男らしくないわ、なんでもないつまみなのにおおげさだわ」
 高天雲は彼女が機嫌を悪くするのを恐れて慌てて「はい、済みません、よけいなことを言ってごめんなさい」言い、どうしていいかわからず、言葉も少なく固くなって赤くなるばかりであった。張美英はその様子を見てますます嬉しくなった、彼女は多くの男と付き合い手練手管にたけているが高天雲のような素朴な男は初めてでさらに情を深くした。
 二杯のビ−ルで張美英の白い顔はほんのり赤くなり、目は潤んで一層美しく魅力的になった、彼女はコップを置いて、ハンカチで額ににじんだ汗を拭くと、高天雲に「暑いわね、あたし体を洗ってくるからあなた一人で飲んでいて」と体を起こしてニッコリ笑い寝室にはいり、さっとドア−を閉め、浴室に入って行った。

 高天雲は女性のこの様子をはかりかねとても悩んだ、時計を見るともう11時である、しばらくすると浴室の音が聞こえなくなったので彼は帰ろうと体を起こすと、張美英が寝室から彼を呼んだ「高さん、入ってきて」高天雲は返事をして、寝室に行きドア−を開けて、目の前の光景にびっくりしてしまった。
 薄暗い光りの中に張美英はピンク色の湯あげタオルをかけ胸もあらわに裸でベットのわきに立ち彼を真正面から見ているのだ、高天雲は張美英がこんな風にするとは思いもつかなかった、みれば雪のように白い肌、彼は興奮を押さえ切れずもう少しで心臓が飛び出しそうで言葉がつながらず「エ−エ−もう上がったの」 「ええ、あなたも体を洗ったら」と張美英は言いながら濡れた髪をとかし「今日はとてもいいお湯、気持ちいいわ」と高天雲の手をとりベットのわきのソフア−に座らせた。高天雲はまだ女性の肉体に触れたことがない、張美英に手をひかれていると複郁とした薫りが彼に迫ってくる、全身がしびれて手をのばそうとすると、張美英の後ろの壁にカラ−の結婚記念写真が掛けられていた、花嫁は正しく張美英で新郎は頭の禿げた男。

 アッ……彼はおどろいて目を丸くして口を開けた、張美英は人妻だ、まるで頭から水を浴びせ掛けられたようで、たちどころに情熱はしぼんでしまった。彼は急いで手をひっこめ、「ケ、ケッコンしていたの」 「結婚してたらどうなの」張美英は彼の逞しい体を見ながら淫らに笑って、彼の手をとって「この人は貿易商でわたしはこの人の妾なの。彼は1、2か月にここに何日か泊まるけどあとはわたし一人なのよ……」高天雲が体を動かさないでいると張美英は引き出しから指輪を取り出して「あんたは真面目で可愛いくてわたし好きよ、だからわたしと付き合って頂戴、これから来られる時にわたしと一緒に夜を過ごして、わたしを慰めて、あんたがほしいものなんでも言って、きっとあんたを満足させてあげるわ」彼女はそう言いながら指輪を高天雲の指にはめた。

 高天雲は目の前に裸でいる張美英に少しも心を動かさず、自分の人格に受けた侮辱に恥ずかしさと怒りで指輪を外し「わたしは玩具じゃない」と張美英に向かって投げた、張美英は「見栄をはらなくてもいいわよ、あんたもう30を過ぎた独り者じゃあないの、あたしがただで寝てあげると言っているのに、まさか……」と白けて言った、これを聞いて高天雲はまるで蝿でも食べたように手を振り払い、大声で「私は一生独身でもいい、あなたのような女性はいらない。私は愛情、純粋な愛情を求めているのだ、お前のような妾ではない、わかったか」と言って張美英を軽蔑の笑いで見て大股に寝室から出た。

 彼は街の中に出て冷たい風に吹かれ、迷いから醒めてように“フッ”と長い息をつき 「街で恋人を捜すのは本当に難しいなあ」と言った。  

        当代流伝故事選                                      1993・11・12

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