百獣衣

 ずっと昔、ある長者の家に聡明で美しい玉娟という娘がいた。玉娟は学問に通じ、書や画も巧みで、さまざまな素晴らしい図柄の刺繍も作り、百里四方で玉娟を知らない者はなかった。長者は娘を政府高官の家に嫁がせようと思っていたが、すでに玉娟には意中の人がいた。誰かと言うとこの家の作男の張勇である。張勇はこの家にもう十年も働いている好青年で、勇気もあり深山密林にわけ入り、獣を捕らえ、鳥を射、少しも怯むところがなかった。二人は互いに好きで、もう離れられない仲になっていた。長者はそれを知ってはいたが、主家と雇人の間だから格が違うと問題にしていなかった。

 ある日、玉娟は張勇に「まだわたしと結婚しないの」と聞いた、張勇が「結婚します」と答えると玉娟は「それなら早く父に言って」と言った。 張勇が長者に玉娟との結婚を申し入れると、長者は「天の白鳥の宝の卵を二つ結納に持って来れば、お前たちの結婚を承知してもいい」と言った、屏風の陰で父親の無理な要求を聞いていた玉娟は涙を流したが、張勇はそれを即座に承諾した。 張勇は長者の家を離れて旅立ち、遇う人ごとに天の白鳥のありかを聞いた。

 ある日、老婆が、真南の方向に千年たった松の大木がある、その上に天の白鳥の巣があると教えてくれた。それを聞いた張勇は南に向かって勇んで出発した。山があれば道を開き、河があれば橋をかけ、七七四十九の河を渡り、九九八十一の山を越え、とうとう高く聳えた千年の松を見つけた、張勇が松に登ると木の股に確かに天の白鳥の巣があった。しかも宝の卵が二つある、張勇は喜んで宝の卵を懐にしまい、急いで帰った。

 長者は張勇が天の白鳥の宝の卵を持って来たので仕方なく、黄道吉日を選んで玉娟と張勇を結婚させた。張勇は長者の婿になり畑仕事はしなくてよくなったが、働き者の張勇はじっとしていられず、玉娟に自分たちの所帯を持とうと相談した、もちろん玉娟に異存はなく、二人は長者の屋敷から出て自分たちの小さな家を建て、畑に野菜を植え、野菜がとれると、張勇は野菜を担ぎ玉娟は秤を持ち二人で売り歩き、楽しく日々を過ごした。

 ある日、玉娟は張勇に「やがて子供が生まれ、小さな着物を作ったりいろいろしなければならないからもう一緒に仕事をしないほうがいい、その代わりにわたしの絵姿を何時も持ってわたしだと思って頂戴」と言って自分の姿を描いた絵を渡した。それから張勇は玉娟の絵姿を懐にして何時も仕事をするようになった。ある日、野菜を売りに行くと、目も開けていられないような大風が吹き、風が止むと玉娟の絵姿がなくなっていた。絵姿が風に吹かれて宮廷に飛んでいったとは知るよしもない。

 宮廷でこの絵姿を見た皇帝は“こんな天女のような美女が宮廷の外にもいたのか”と思い、すぐ四方を捜せと命令した。 玉娟は張勇が自分の絵姿をなくし、皇帝が絵姿の美女を捜していると聞くと、夫の張勇に一頭の虎を捕らえ皇帝に貢ぐ準備をし、さらに百頭の獣を捕らえ、その皮で大衣を作るようにと言った。果たして、しばらくすると宮廷の役人が張勇の家に来て、絵姿と同じ玉娟を宮廷へ連れて行ってしまった。

 皇帝は玉娟を見ると非常に喜び、玉娟を皇后にしようとしたが、玉娟は死んでも承知せず、珍珠玉宝も見向きもしなかった、ついには鞭や棒で叩いたが玉娟は声も上げなかった。 七日たっと、宦官が虎を貢ぐ者が来たと告げたので、皇帝はその者を昇殿させた。すると張勇が百獣の皮の大衣を着て宮殿に昇った、玉娟は喜びの声を上げて笑った、皇帝は玉娟に何が面白くて笑ったのかと尋ねると、玉娟は「わたしはあの大衣が好き」と言った、皇帝は玉娟を喜ばせようと張勇に「宮廷の宝でお前の好きなものを何でもやる、その大衣と取り替えてくれ」と言った、張勇は眉をひそめ「わたしのこの百獣衣がほしいなら、皇帝の着ている龍袍をください」と答えた、皇帝は龍袍より美女がいいと、すぐ龍袍を脱いで張勇の百獣衣と取り換えた、張勇は龍袍を着ると、堂々と皇帝の座位に着き武士たちに大声で「あの無頼者をひっとらえて首を斬れ」と怒鳴った、皇帝が何か言おうとする間もなく武士たちは百獣衣を着た皇帝を宮廷の外にひきずり出し、首を斬ってしまった、張勇はそれを見ると龍袍を脱ぎ捨て、玉娟と二人で仲よく家へ帰った。    

 これは中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中〈百獣衣〉の私の語りである。日本の昔話には同じような筋立ての〈絵姿女房〉がある。     

           はじめに戻る