生き仏を探す
諺に「生前、父母に孝養すれば永く供養することはない」言うが、この言葉が生まれたわけには昔話がある。
昔、ある所に夫婦がいた。男の子が一人いたがこの子がまだ三つにならないうちに父親が死んだ。父親のない家が日を過ごすのは困難なものだ。この母親と小さな子の暮らしも苦しく、母親はある時は若いうちに再婚したほうがいいとも考えたが、この子を辛い目にあわせるかもしれない、それより自分ひとりが苦しみを背負い、この子が大きくなるまで育てたほうがいいと思った。こうして母親は苦労しながら歯を食いしばり母子で暮らした。
日に日に息子は大きくなり、やがて手助けもできるようになり、暮らしも少しよくなった。 けれどもこの息子が小さい時から働くのが嫌いで、母親の苦労を知らず、親不孝になるとは思いもつかなかった。母親が何かさせようとすると、眉をしかめ、目をつりあげて母親を罵り、文句を言い終わると“ゴトッ”と音をたてて戸を閉め、何処かへ行ってしまう。また、外で気にいらないことがあれば家に帰ってから母親にむごくあたる。こうして息子が母親を罵り、叩くのは日常茶飯事になってしまった。やがてこの息子が老人を大切にしないと、一から二、二から三と伝わり、十里八村に知れわたってしまい、二十を過ぎても、誰も嫁を世話する者もなく、何処の家の娘もこの息子の嫁になろうとはしなかった。
この息子は親不孝だが、神仏を信じている。ある日、息子は外で遊んで帰ると、母親が繕い物をして、まだ飯の支度をしていなので火のように怒り、一こと二こと言うと手を上げて母親を殴りつけた。老いた母は声を呑んで忍び、「息子や、母親をぶつたりすれば、神様仏様がお前を見ているよ」と言うと息子は叩くのをやめ、「おっかあは神仏がいると言うが、どうして俺は会えないのだろう、それに年がくれば普通の若者はみんな結婚するのに、俺には相手の影もない。よし、明日から生き仏を探し、線香をあげ、神仏の助けで結婚し、俺は人にいつまでも、ならず者と言われないようにしよう」と考えた。
息子は翌日朝早く起き、母親に「婆さん、俺は生き仏に線香あげてくる」と乱暴に言い“ゴトッ”と戸を閉めて出た。息子はドンドン歩いて、山を越え、川を渡り、人を見れば「生き仏は何処にいるか」と尋ね、人に会えば「何処に生き仏はいるか」と聞いたが、どの人も頭を振って「知らない」と言った。息子は七七四十九日歩いたが生き仏は見つからない。息子は神仏はいると信じているいのでくじけず、旅の金がなくなれば物乞いをし、宿に泊らず橋の下、洞穴で寝、軒下にうずくまり、塀の下に伏して夜を明かし生き仏を探した。
ある日、山越えをしていると、山の上から白い髭の老人が下りて来た、息子は早速「爺さん、生き仏は何処にいるか知っているか」と聞いた、「お前は生き仏を探しているのか」「そうだ、生き仏を探しているのだ、知ってるなら教えてくれ」「よし、よし、生き仏が何処にいるか教えてやろう。今すぐここから、もと来た道を引き返し、上着を裏返しに着て、靴の踵をつぶして履いている人を見たらその人が、お前の探している生き仏だ」息子は「元の道を戻れば、きっと生き仏に会えるか」「その通り、間違いない」息子は白い髭の老人の話を聞き終わると、すぐ体を回して戻って行き、途中歩きながらも瞳を凝らして、上着を裏返しに着て靴の踵をつぶして履いている人を探した。
息子はドンドン歩いて、また七七四十九日で自分の家の前に戻ったけれども、まだ上着を裏返しに着て靴の踵をつぶして履いている生き仏を見つけることはできなかった。この日暗くなって家に着いたので、息子は今晩は内に泊まり、明日また出かけようと考え、家の門を足で蹴とばして開けた。この時、着物を脱いで寝ようとしていた母親は音を聞き息子が帰って来たと思い、床からくるりと起き上がると、慌てて上着を裏返しに着て、靴の踵をつぶして履き、急いで門に行こうとした。息子は部屋に入ると驚いた、母親が上着を裏返しに着、靴の踵をつぶして履いている、息子はハッと気がついて、「ワア」と一声だして母親の前にひざまづき、深くお辞儀をしてから「生き仏様はここにいた、わたしを許してください、これから、おっかさんを叩いたり、罵ったりしません、わたしはよくよく老人を敬います」と言った。母親は息子が帰ってきたので嬉しくてたまらない、急いで息子を助け起こし「息子や、早くお立ち、お前が出て行ってから何日もたって、待ちかねていたよ、おっかさんはお前を片時も忘れやしなかったよ、今晩帰って、また心を改めてくれて、おっかさんは嬉しい、早くおいで、おっかさんと話そう」と言った。
息子は立ちあがると、母親の床によって、道で白い髭の老人に会ったことを話した、母親はそれを聞くと「息子や、お前これからしっかりすれば、きっとお嫁さんが来るよ」息子はうなずいた。こうして息子はしっかりして老いた母を叩いたり罵ったりせず、いろいろ母親に心配をかけず、隣近所の娘やその母親たちもみんなこの息子がいい人になったと言い、それから息子は賢い妻を娶り、一年たって可愛い子供も生まれ一家は睦まじく一緒に暮らした。そして一日一日と幸せになった。 姜淑珍故事選