借りた米を返す
昔、夫に早く死に別れた母親が娘と男の子の三人で貧しく暮らしていた。やがて娘は嫁つぎ、母親は男の子と母子二人の暮らしになったが楽ではなかった。
娘の亭主になったのは村の職人で何時も外に働きに出ていたが、子供も生まれ暮らしもだんだんよくなった。母親は娘夫婦の家が近かったので、米が足りないと何時も娘の所に籠を持って借りに行った、娘はどんなに忙しくても母親が籠を持って来ると、また米がなくなったのだなと、仕事の手を休め、米櫃から米をだして持って来た籠一杯に貸してやった、すると母親はそれを持って喜んで家に帰って行くのだった。
母親が娘の家に「娘や、お米を返しに来たよ」と言って米を返しに来ると、娘は裏の畑にいて、母親が籠を持って来たのを見ると、娘は自分の親でもあるし、返す米が少ないかどうかなど気にもとめず「おっかさん、米櫃の中に返しておいて」と言うだけで見もしなかった。そのうちに母親はそれをいいことに頭を働かせ、米を返す時、籠をひっくりかえして、籠の底の凹んだ所に米をいれ籠一杯にみせかけ、米櫃に米を返していた。こうして母親は娘から借りた米を実はわずかしか返していなかった。
何年か経ち母親は年老いて老婆となり、やがて病気になり死んで霊界へ行った。閻魔大王は老婆を見ると「お前は現世の借りをまだ返していないから、現世に戻れ」と告げたので、老婆は「わたしは誰からの借りもありません」と答えると閻魔大王は「ある、よく考えてみろ」と言い、老婆がまた「わたしは本当に誰の借りもありません」と答えると、閻魔大王は老婆に思い出させるように「籠一杯の米を借りながら、籠をひっくりかえした底に米を少しのせて返しても、返したことになるのか」と問い質すと、老婆はやっと現世で娘に米を借りていた頃のことを思い出した。閻魔大王は「思い出したか、お前は生まれ替わって借りを返してから霊界へ来い」と言った。「ではどうすればわたしは生まれ替われますか」「いいことがある、お前の娘の家のめん鶏がいま雛を孵しているから、お前は一羽の雛に生き返って、借りを返せしてくればいい」
こうして閻魔大王は老婆をまた霊界からこの世に雛にして生き返らせた。雛になって生き返った老婆はだんだん大きくなって卵を生むめん鶏になり、一年三百六十五日毎日々々一個卵を生んだ、三年卵を生み続けて老婆は娘から借りた米の分を返し、ある日最後の卵を生むと死んでしまった。 娘はよく卵を生んだめん鶏がさっきまで元気でいたのに、ちょっとの間に死んでしまったのでとても悲しんだ。子供が死んだ鶏を見て肉をゆでて食べたがったので、娘は子供に「いい子だからお母さんの言うことをよくお聞き、明日叔父さんが来たら食べよう、おばあちやんが死んでから叔父さんは一人で暮らしていて可哀相だし、それに誰も世話してくれる人もないのだから」と言うと子供が「鶏をゆでておいて叔父さんに残しておけばいいでしょう」と言うので娘は「それでもいいよ、鶏をお鍋でゆでたら腿肉を二本叔父さんのために食器だなにしまっておきな」と言った。
その晩、この子の叔父は家で夢を見た。夢の中で死んだ母親が泣きながら「息子や、わたしはお前に頼みたいことがある、明日お前が姉さんの所に行くと、姉さんはお前に大きな鶏の腿肉を二本くれるけれど食べないでおくれ、それはおっかさんの二つの足だよ、もしお前がそれを食べれば、お前はおっかさんを食べたことになるのだよ」「おっかさんの言うことはよくわからないよ、鶏の腿肉がどうしておっかさんの足なの」「お前は知らないだろうが、おっかさんが生きている時、お前の姉さんの家からお米を籠に一杯借りて、返す時は籠をひっくりかえし、籠の底にお米を少しいれて返していたんだよ。それで閻魔大王はわたしをめん鶏に生まれ替わらせ、現世の借りを返させたんだよ。返し終わってめん鶏になったわたしが死ぬと、娘の子がわたしをゆでたのだよ」 この夜、弟はこの夢を三回続けて見て、目を覚ますと眠れなくなり、夜の明けるのを待たず姉の家に行った。
姉は弟が朝早く来たので「お前、こんなに早くきて、まだご飯を食べていないだろう、ちょうどよかった、昨日わたしの内で鶏が死んだから、ゆでて腿肉をとってある、それをお食べ」と言うと、弟はそれを聞いて姉の内のめん鶏が本当に死んでいたのを知って涙が止めどもなく流れてきた、姉は弟が泣くのを見て「お前、どうかしたの、何か心配事でもあるのかい、早く話してごらん、わたしが考えて助けてあげるから」と言うと、弟は昨夜三回も同じ夢を続けて見たことを姉に話した。姉は聞き終わると涙を流して泣いた、姉弟は泣きながら二つの鶏の足を深く土に埋めた「姉さん、泣くのを止めて、おっかさんは、どんなことでもみんな一は一、二は二でなければいけない、本当のことは本当としてごまかしてはいけないと教えてくれたのだから」と言った。 姜淑珍故事選